共同研究

1-1.漁場利用の比較研究

調査(佐渡) 【 佐渡島のシイラ漬漁業の歴史と民俗 】

日程: 2012年10月19日~21日
実施地: 新潟県佐渡市相川姫津 (姫津漁協、 新潟県立図書館)
実施者: 橋村修

 新潟県佐渡市相川姫津の姫津漁協を訪問し、筆写稿本にある「姫津共有文書」等に記載のある漁業のうち、シイラ漬漁業について、記憶のある方々に聞き取り調査をおこなった。あわせて、漁場利用の実態のわかる資料を撮影し、聞き取り調査をおこなった。当地では、近世初期に石見銀山(島根県)より佐渡金山へ連れて来られた鉱夫たちと一緒に沖合漁業をおこなう漁業者数名が連れてこられ、その子孫たちが漁業鑑札を所持して、鱈漁、シイラ漬漁業をおこなってきた。そのほかには、新潟県立図書館、両津図書館等を訪問し、関連資料の閲覧、撮影などをおこなった。 (橋村 修)

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調査(沖縄) 【 パヤオの利用形態に関する補充調査 】

日程: 2012年9月20日(木) ~ 2012年9月22日(土)
実施地: 沖縄県名護市(名護漁協、名護市役所)、本部町(本部町役場、本部漁協)、那覇市(沖縄県立図書館)
実施者: 若林良和

 今回の調査は、これまでの調査内容に関わる補充的な情報収集を行なうことに力点を置いた。
 まず、名護市においては、「副次的機能」と位置付ける地域資源としてのパヤオの活用形態を調査した。沖縄県のパヤオであるニライ(耐用年数終了)を活用することになった経過、集客とPRの現状などを把握した。(写真下左右参照)
 次に、本部町では、「本来的機能」としてのパヤオをカツオ漁業との関わりで調査を実施した。前回の調査で入手した「漁撈日誌」に関する補足的な情報を収集した。最後に、那覇市では、沖縄県立図書館で、沖縄県の地域漁業について情報収集した。 (若林良和)

地域のモニュメントとしてのパヤオ (撮影:筆者) パヤオの底部で休憩する市民 (撮影:名護市役所)

写真左: 地域のモニュメントとしてのパヤオ (撮影:筆者)
写真右: パヤオの底部で休憩する市民 (撮影:名護市役所)

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資料調査(九州) 【 カナダ日本人漁業史をめぐる個人資料 】

日程: 2012年8月11日(土) ~ 2012年8月13 日(月 )
訪問先: 熊本県玉名市岱明図書館・大分県臼杵市教育委員会・大分県立図書館
実施者: 河原典史

  熊本県玉名地方からは、多くのカナダ移民を輩出している。1907(明治40)年、東京移民合資会社の契約移民として渡航した角口泰一郎も、その1人である。渡加後、日加用達会社によってバンクーバー島中央部にあるカンバーランド炭坑に着いた彼は、3年間の契約満了後、アメリカ・アラスカ州との国境に近いスキーナー川河口でサケ漁にも従事し、やがて当初の炭坑に戻った。彼のように炭鉱夫や鉄道工夫としての契約移民であった日本人が、契約満了後にサケ缶詰作業に関わったことは看過できない。角口家の血縁関係者が保存する彼の手記やその他の資料からは、産卵期に遡上するサケを漁獲する刺網漁業は、比較的簡易な漁撈であり、その労働力として日本人が重宝されたいたことが垣間見られる。

リザドン・ベイで塩ザケ製造業に携わる小坂茂一とその仲間

 大分県臼杵地方出身の小坂茂一もまた、渡加当初の仕事を経て塩サケ製造業を営んでいた。彼の三男によれば、父・茂一と母・きのゑは、1906(明治39)年にカナダへ渡り、1910(明治43)年には、クィーン・シャーロット諸島に開設したばかりのローズ・ハーバー捕鯨基地に日本人主任として赴くようになった。イギリス系が経営する捕鯨基地では、ノルウェー人が砲手、日本人が鯨の解体、中国人が鯨油採集というように、民族(国)別の分業システムが取られていた。ただし、第一次世界大戦後の鯨油不況により、彼らはこの捕鯨基地を離れ、バンクーバー郊外でイチゴ栽培などに従事した。その後、1926(大正11)年から数年間は、バンクーバー島西岸のリザドン・ベイで塩サケ製造業を営んでいた(写真)。日本でドイツ語を取得し、多民族からなる捕鯨基地では日本人主任を務めた彼は、サケ刺網漁業に関する水産加工業へと展開したようである。

 このように、サケ漁をめぐる広範囲な生業に、当初は異なる目的でカナダへ渡った日本人が数多く関わっていたことは、記録に留めておかねばならない。 (河原典史)

写真:リザドン・ベイで塩ザケ製造業に携わる小坂茂一とその仲間(『小坂家コレクション』)

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資料調査(東京海洋大) 【 パヤオ漁業に関する資料収集 】

日程: 2012年3月14日(火)~2012年3月15日(水)
訪問先: 東京海洋大学付属図書館 品川キャンパス(東京都港区)
実施者: 若林良和

 パヤオ(ここでは、中層型の人工浮き漁礁・FAD)をめぐる漁場利用に関して、これまでに筆者が調査研究を推進してきたフィールド(沖縄県、台湾)の地域漁業に関する史資料を確認し収集するとともに、パヤオと資源管理、パヤオの利用形態に関する情報収集を行なった。
 今後、これまでに得られた調査結果の整理、詳細な分析・検討を行ない、研究成果を公表する予定である。(若林良和)

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海外調査(フィリピン) 【 フィリピン北部の沖合漁場利用に関する資料収集と現地調査 】

日程: 2012年 3月13日(火) ~ 3月17(土)
実施地: フィリピン大学(UP)CIS(The Center for International Studies) ,同大学図書館 ,同大学Marine science institute(マニラ・ケソン(Quezon)市)。Araneta Centerのファーマーズマーケット(ケソン市)。ルセナ漁港(ルセナ)。アティモナ漁港(アティモナ)。
実施者: 橋村修

UP Marine science institute

 フィリピン北部沿岸、東海岸は、いわゆる黒潮ルート、「海上の道」につながる海域で、奄美諸島、琉球諸島、台湾、さらにミクロネシアとのイモを中心とした農耕文化、トビウオ漁の漁撈文化、諸儀礼等の類似性が、国分直一、佐々木高明をはじめとした研究者たちによって指摘されている。今回の調査は、そうした視点から、特にトビウオ以外の回遊魚シイラ、カジキ等の漁撈・漁業と流通、魚食、さらに漁場利用、FAD(Fish aggrigating device:浮魚礁)漁場利用の情報を得ることを目的に、おこなわれた。調査研究をおこなうにあたり、フィリピン大学The Center for International Studies (CIS)に大変お世話になった。
 資料調査は、フィリピン北部のバタネス、ルソン島中南部、サマール島、レイテ島等ビサヤ諸島東岸の漁場利用と大型回遊魚(シイラ、マグロ、カツオ、カジキほか)の漁法、流通経路、魚食に関して、フィリピン大学(CIS)、附属図書館、Marine science institute(写真上))でおこなった。特に、バタネスの海洋人類学的成果、浮魚礁パヤオ(タガログ語でpayao)に関するフィリピン側の研究とパヤオの規模や分布について情報を得たことは収穫であった。ビサヤ海には小型パヤオが、フィリピン東海岸の太平洋側には、マグロ漁船漁業者が設定した小型パヤオが存在するようである。沖縄を中心に西日本にみられる大型パヤオや中層パヤオの存在は確認できなかった。また、太平洋側のマグロ漁のパヤオは1990年代に多く存在したが、現在では減少しているとの情報も得た。このことは、フィリピンにおいてマグロの食文化がそれほど盛んでなく、内海や養殖の白身魚が好まれていることと関係するようである。
 日程後半には、マニラ・ケソン市の魚市場にてマグロ、シイラ(ドラード)、Tanigue、シャーク等の沖合回遊魚の流通について観察調査をおこなった。シイラは、太平洋で獲れたビサヤ方面からのものと、南シナ海で獲れたパラワン方面(空輸もあり)からのものに区分されるようである(写真下)。これらの地域での漁業は、いずれもシイラを主要なターゲットにしたものではない。シイラ漁で有名なバタネス方面からの流通はないそうである。

マニラ・ケソン市のファーマーズマーケットに並ぶシイラ(ドラード)

 さらに、マニラから南へバスで約3時間の、ビサヤ方面からの魚が集まる漁港に、夜半から早朝にかけて長時間滞在し、漁場から戻ってきた約15艘のバンカー船のイワシ等の水揚げ観察をおこない(写真下左)、魚商人への聞き取りをおこなった。また、さらに南へバスで約2時間の太平洋に面する漁村(写真下右)にて回遊魚シイラ等の漁業の漁場利用(バタネスや台湾南部付近までの出漁ほか)や魚の価格、流通、3日に1回程度の沖合回遊魚漁船の水揚げの仕組みについて聞き取りをおこなった。

ルソン島中部ルセナ漁港の漁船 ルソン島中部太平洋側のアティモナにて

 今回は、今後の調査課題、継続調査の設定、およびFADについての比較研究をおこなうための基礎資料を収集することができ、短期間ではあったが、研究協力体制の下で、有意義に調査を終えることができた。 (橋村 修)

写真上段: UP Marine science institute
写真中段: マニラ・ケソン市のファーマーズマーケットに並ぶシイラ(ドラード)
写真下段左: ルソン島中部ルセナ漁港の漁船
写真下段右: ルソン島中部太平洋側のアティモナにて
(4点とも筆者撮影)

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調査(長崎) 【 長崎県における石干見(スクイ)の資料収集 】

日程: 2012 年 3月 9日 (金)~  3月 11日 (日) 
訪問先: 長崎県長崎市(長崎文化歴史博物館)・島原市(みんなでスクイを造ろう会)
実施者: 田和 正孝
 
 3月9日には、長崎歴史文化博物館が所蔵する明治時代の漁業権資料から南高来郡・北高来郡の石干見(スクイ)に関する資料を抽出し、写真撮影をおこなった。この資料を用いた二次的資料はすでに確認していたが、現物を検討するにおよんで、スクイに充てられた複数の漢字表記など新たな知見を得た。漁業権数は二百数十にものぼり、当時、有明海沿岸、島原半島沿いにスクイが累々と連なっていた景観を彷彿とさせた。夕刻には島原市に入り、市民を中心とした団体「みんなでスクイを造ろう会」の手によって復元されたスクイを観察した。一般の市民がだれでもスクイに入り、魚をとることができる。午後の干潮で大小のチヌ(クロダイ)が約60尾できたという。

島原市に復元されたスクイで魚とりをする市民 漁獲されたチヌ(クロダイ) 写真下部に写っているのはカメラレンズのキャップ

 10日には「みんなでスクイを造ろう会」のメンバーとスクイの保存と活用について意見を交換し、スクイのかつての利用についても情報をえることができた。島原のジオパーク推進のなかで、スクイもこれに関係する人文的なツールとして、また子供たちの体験漁業のツールとして、市民が積極的に活用したいと計画している。島原のスクイには海岸寄りの1か所に小さな鉤型の捕魚部が設けられている。古くからこのように造られていたようで、海水が引ききらない時分にこの捕魚部に魚群を追い込み、入口を仕切ったのち、魚を捕らえたという。11日は、諫早市北高来町水ノ浦に残るスクイ(諫早市の文化財に指定)を所有していた中島家を訪ね、安伊氏(93歳)からスクイに関する様々な話を伺った。 (田和 正孝)

写真左: 島原市に復元されたスクイで魚とりをする市民
 写真右: 漁獲されたチヌ(クロダイ) 写真下部に写っているのはカメラレンズのキャップ 
(2点ともに筆者撮影)

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海外調査(台湾) 【 台湾におけるパヤオ漁業の現状把握 】

日程: 2012年3月5日(月)~2012年3月10日(水)
実施地: 行政院経済部(台北市)、水産試験所沿近海資源研究中心・漁業署遠洋漁業開発中心(高雄市)、小琉球(屏東県)、国立台湾海洋大学(基隆市)など
実施者: 若林 良和

台湾の中層パヤオ(撮影:台湾政府行政院農業委員会水産試験所、2006年5月)

 今回の調査は、平成22年度の調査で得られた調査結果を踏まえ、収集した統計データを更新し、新たな文献・資料を収集した上で、台湾のパヤオ(ここでは、中層型の人工浮き漁礁・FAD)漁業の現状に関するインタビューを行政担当者や漁業者に行なった。
 まず、台湾漁業に関して、生産統計など基礎データを更新・新たに入手し、漁法や漁業労働、漁港、漁村・魚食文化に関する文献や資料を確保した。その次に、台湾パヤオ漁業の実態に関して、パヤオの形状と構造、設置状況、漁場利用、漁獲効果、魚の消費形態などをインタビューにより把握した。
 以下に、そのインタビュー結果の一端を紹介しておく。①パヤオは、中層型の場合、日本のものとほぼ同型で、類似した構造となっている。(写真右上)②パヤオは現在、台湾南部の沿岸域6マイル内に42基が設置されている。それらを利用する漁船が年々、増加傾向にある。③水産資源の管理の観点から、各地で管理機規則・「漁場営運管理辦法」が制定されている。これは台湾政府のほうで雛形を提示し、地域の特性に応じて漁会などでアレンジして定められたものである。④沿岸漁業者はマグロ(主に、キハダ)やカツオ、シイラ、サメなどの回遊魚を対象に、一本釣漁法や延縄漁法を行なっている。

台湾・小琉球の大福漁港(撮影:筆者、2012年3月)

漁業者は、燃油など経費の節減、効率の良い漁獲効率の改善を図ることができることから、パヤオから大きな恩恵を感じている。このことは、今回のフィールドとなった屏東県小琉球にある白沙碼頭や大福漁港の漁業者の多くが肯定している。(写真左)それで、漁業者間でパヤオ増設というニーズが高いものの、台湾政府は水産資源管理の立場から現状維持の方針をとっている。⑤パヤオ利用に関するトラブルとしては、旋網漁法や集魚灯使用などの違反が見られる。 
 今後、これまでに得られた調査結果の整理、詳細な分析・検討を行ない、研究成果を公表する予定である。 (若林良和) 

写真上: 台湾の中層パヤオ(撮影:台湾政府行政院農業委員会水産試験所、2006年5月)
写真下: 台湾・小琉球の大福漁港(撮影:筆者、2012年3月)

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調査(沖縄) 【 八重山における石干見(カキ)の保存と活用 】

日程: 2012年3月4日(日)~ 3月7日(水)
実施地: 沖縄県石垣市周辺(WWFサンゴ礁保護研究センター、小浜島、西表島など)
実施者: 田 和 正 孝

西表島古見(こみ)集落の沿岸に残るカキの石積み

 沖縄県八重山諸島は、かつて数多くの石干見(カキ)が存在したところである。実際に利用されているものは、現在はないが、石垣市白保では竿原(ソーバリ)のカキが復元され、地元小中学校の総合学習や体験漁業のためのツールとなっている。小浜島にはスマンダー垣とウンドー垣の2基が比較的よく保存されている。今回の調査ではこれらが現在どのように利用されているかについて聞き取りをした。特に小浜島では、今後、国の補助金を利用して5基のカキを復元し、修学旅行生に体験漁業の機会を提供する計画があるという。3月6日に訪れた西表島の東海岸側には、カキの跡がまだ多く確認できる。これらはほとんど調査・研究されていない。記録を残すことが急がれる。今回は潮加減が悪く、干潮時にも石積みがあまり干出しなかったため、予備的な調査に終わった。今後、まとまった調査日数を設定し、本格的な調査を実施できればと考えている。 (田和 正孝)

写真: 西表島古見(こみ)集落の沿岸に残るカキの石積み(筆者撮影)

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調査(鹿児島) 【 奄美群島南部の漁場利用 】

日程: 2012年2月27日(月)~2012年3月3日(土) 
訪問先: 与論民俗村、与論町漁業協同組合、和泊町歴史民俗資料館、沖永良部島漁協、和泊町立図書館、徳之島漁協、徳之島町立郷土資料館、鹿児島県立図書館
実施者: 橋村修

与論漁協でのソデイカの水揚げ

 鹿児島県大島郡南部の与論島、沖永良部島、徳之島の沖合海域を中心にした漁場利用について調査をおこなった。鹿児島市の鹿児島県立図書館では、当該地方の自治体史や郷土資料について調査をおこなった。
 各調査地では、まず与論漁協、沖永良部漁協、徳之島漁協を訪問し、早朝の入札(与論8時、沖永良部と徳之島は9時から)とソデイカの水揚げ見学(写真)、組合長、組合職員、漁師、仲買人各氏への聞き取り調査(概況、魚名の地方名、漁業史、回遊魚漁業)、沖合の浮魚礁パヤオを中心にした漁場利用に関する資料収集を、非常に協力的な雰囲気のなかでおこなうことができた。与論民俗村、和泊町歴史民俗資料館、徳之島町立郷土資料館、および漁師さん宅では、リーフ付近の漁場利用(この時季が旬のアオサ採取、夜光貝とり。来襲するスクの漁撈と雷との関係ほか)、漁具(撮影調査)、漁撈・魚食に関わる歴史民俗(魚の地方名、サンゴ利用ほか)について情報を得ることができた。和泊では、アオサ摘み取り機械を個人が開発していた。さらに、学校給食における魚の利用(与論では未利用魚であったサメを活用した給食が好評である)や郷土料理の活用についても関係機関(給食センターほか)で情報を得た。
 与論島と沖永良部島では、戦前の与論の漁師たちの多くが、10代半ばから沖縄県糸満、奄美大島で漁業に従事した後、与論に戻るものもいれば、その後沖永良部や屋久島に移住して漁業に従事する者もいた。農業中心である沖永良部島の漁師の多くは与論出身者が占めているという。糸満での漁業従事を経験した方々の高齢化も進み、各島の違いに注目した聞き取り調査は急務だと思われる。沖合漁場については、沖合側から沿岸にかけて水産庁、県、各漁協の浮魚礁パヤオが設置されている。設置の背景、出漁の季節性、米軍訓練海域との関係その他について引き続き調査していきたい。 (橋村 修)

写真: 与論漁協でのソデイカの水揚げ(筆者撮影)

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調査(沖縄) 【 沖縄県宮古地域・本島地域におけるパヤオの利用形態 】

日程: 2012年2月25日(土)~2012年2月29日(水)
訪問先: 沖縄県立図書館、沖縄県庁(那覇市)、宮古島市役所・伊良部漁協(宮古島市)、本部漁協・町立博物館(本部町)名護博物館(名護市)、海の文化資料館(うるま市)
実施者: 若林良和

本部町立博物館(撮影:筆者、2012年2月)

 今回の調査は、過去5回の調査(2009年12月、2010年7月、2010年12月、2011年3月、2011年8月)を踏まえ、パヤオとその漁業に関する資料・情報を追加補充することを目的とした。今回は、沖縄漁業の行政・統計資料の更新を図るとともに、宮古地域や沖縄本島の漁協などで次の2点を中心に情報収集を行った。併せて、沖縄本島の本部町立博物館(本部町)(写真右)、名護博物館(名護市)、海の文化資料館(うるま市)において、沖縄(琉球)の漁撈文化や海事文化に関わる資料の把握を進めた。

①パヤオの本来的機能:パヤオを用いた漁撈活動
 まず、宮古地域の伊良部漁協では、パヤオでの漁撈活動について、これまでに得られたデータの確認と補足的な実態把握を行なった。次に、沖縄本島の本部漁協(沖縄県第1ブロックに所属)では、パヤオの敷設位置に加えて、他県(鹿児島県、宮崎県)とのパヤオによる漁場利用調整の現況を把握した。そして、本部漁港を基点に平成21年まで稼動していた小型カツオ一本釣り漁船T丸の漁撈日誌(10年間:H12~21年)を入手し、パヤオ活用実態(パヤオの依存状況)を調査した。

②パヤオの副次的機能:地域資源として用いたイベント・取り組み
 パヤオを地域資源として捉え、水産振興・地域活性化に向けた取り組みを推進している地域調査を実施した。まず、これまで進めてきた宮古地域の「パヤオの日祭り」に関する補足的な調査を実施した。「パヤオ漁業発祥の地」である伊良部漁協のある佐良浜漁港と、宮古島漁協にある荷川取漁港(写真左下)の2か所で2011年8月に開催された具体的なイベント内容について、前回の調査を踏まえて、宮古島市役所や伊良部漁協などでその詳細を把握した。それから、海上での耐久年数を超えたパヤオ本体(沖縄県が設置した旧型ニライ)を陸上へ揚げて展示している沖縄本島の名護漁協の取り組みを把握した。名護漁港(写真右下)内の土地にパヤオそのものを固定し、周辺に漁協直売所やレストランを配置し、パヤオがPR・集客のための素材として活用されている実態を把握した。

パヤオの日まつり記念タマン放流・荷川取漁港(撮影:沖縄県、2011年8月) 集客を目的にした旧型パヤオと周辺施設・名護漁港(撮影:筆者、2012年2月)

 以上、今回の調査も含めて、これまでに得られた調査データをトータルに整理して、次年度の成果刊行で公表する予定である。 (若林 良和)

写真上段: 本部町立博物館(撮影:筆者、2012年2月)
写真下段左: パヤオの日まつり記念タマン放流・荷川取漁港(撮影:沖縄県、2011年8月)
写真下段右: 集客を目的にした旧型パヤオと周辺施設・名護漁港(撮影:筆者、2012年2月)

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平成23年度 第2回共同研究会 【 H23年度成果報告と兵庫瀬戸内海漁業に関する聞き取り調査 】

日程: 2012 年 2月 18日 (土)~  2月 19日 (日)  
訪問先: 兵庫県西宮市大学交流センター・明石市明石浦漁業協同組合
参加者: 安室知、河原典史、橋村修、若林良和、田和正孝

 2月18日に本年度最終の報告会をかねて、兵庫県にて研究集会(於:西宮市大学交流センター)を催した。参加者は「漁場利用の比較研究」班全員であった。報告内容は以下のとおりである。

 安室 知「自然利用と生業戦略—魚の成長段階名をめぐって—」
 若林良和「パヤオは「漁師の貯金箱」!?—地域資源としてみたパヤオの意義:沖縄県宮古島地域の事例」
 橋村 修「マルタにおける集魚装置漁業—Maltese FADs Fishery」
   「有明海をめぐる漁場紛争に関わる史料と絵図—明治20年代の長崎県と熊本県」
 河原典史「20世紀初頭のカナダ西岸における日本人漁業者の漁場利用—日記と視察報告書からのアプローチ」
 田和正孝「台湾北西海岸、苗栗縣外埔の石滬漁業」
   「第二回水産博覧会と兵庫県漁具図解」(資料配布のみ)

成果報告の様子(西宮市大学交流センター)

 安室は、渋沢敬三『日本魚名の研究』(1959)を拠り所にしながら、自然を利用する意味を魚類の分類および命名の体系から探った。自らの山口県における調査成果を提示して、商業経済の浸透や技術革新に伴う対応といった時空間的変容の中で、命名体系と成長段階名が変化することを解明した。
 若林は、本プロジェクトで継続してきた浮魚礁パヤオの利用に関する調査研究で明らかとなった諸点を整理した。沖縄県宮古で蓄積している成果に基づいて、パヤオの存在意義を、従来からの地域漁業の漁具・漁法として位置づけに加えて、新たに地域活性化のコンテンツとしての位置づけを提示し、パヤオに関して踏み込んで議論を展開した。
 橋村は、マルタにおける2度の調査(2010・2011年)に基づいて、シイラの浮魚礁(FAD:Fish Aggregating Device)漁業について報告した。これまで国内外で進めてきたシイラ漁に関する一連の研究につながるとともに、若林の研究とのコラボレーションも視野に入れている。装置の敷設や漁期の到来時の儀礼、シイラをめぐる文化など様々な情報が提供された。歴史地理学的視点に立つ有明海の漁業権研究は、著書『漁場利用の社会史』(2009)の研究視点に基づく発展的な研究報告である。
 河原によるカナダの日本人漁業についての旺盛な資料収集には敬服するばかりである。すでに多くの業績をものしている。オーラルデータをますます得にくくなる現状に鑑みながら、現地調査を通じて資料を再検討し、研究方法論(たとえば火災保険地図の活用)を精緻化し、看過されてきた資料類(体験者の日記や技術専門員による報告書など)を発掘するなど、研究の体系化が進められていることを報告から十分に理解できた。
 田和は、台湾の石滬(石干見)漁の主要な3地域を紹介し、大正期の漁業権資料を利用して3地域の所有形態を比較検討する視点を報告した。
 以上の報告はいずれも次年度の成果刊行時に盛り込む予定である。

明石浦漁業協同組合の活魚荷捌施設を見学

 19日には、兵庫県瀬戸内海漁業をリードする明石浦漁業協同組合において聞き取り調査を実施した。戎本裕明組合長(代表理事)と村上貴生参事から資料に基づいて同組合地区の概要について説明を得たのち、質問と意見交換をおこなった。買い取り販売事業の展開とサワラ・ハマチの命名(安室)、市民目線で見る「ぎょしょく」普及活動(若林)、潜水漁業と出稼ぎ従事者(河原)、魚の旬の変化(橋村)などについて討論し、新たな知見を得ることができた。休日にも関わらず、貴重な時間をご準備下さった戎本組合長と村上参事にこの場を借りてお礼申し上げたい。  (田和 正孝)

写真上段: 成果報告の様子(西宮市大学交流センターにて) 
写真下段: 明石浦漁業協同組合の活魚荷捌施設

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