共同研究

台湾の「海女(ハイルー)」に関する民族誌的研究—東アジア・環太平洋地域の海女研究構築を目指して—

伊豆須崎区有文書第1回撮影作業、須崎のテングサ販路に関する調査

日程:2021年7月25日(日)~7月31日(土)
調査先:静岡県下田市須崎地区、伊豆漁業協同組合西伊豆統括支所、西林商店(トコロテン製造)、
 土屋茂三郎氏(元テングサ仲買人)
調査者:藤川美代子、齋藤典子
 調査協力者/古谷野洋子(日本常民文化研究所特別研究員・民俗研究者)、古谷野曻(民俗写真家)、
 石川亮太(立命館大学経営学部教授)

船かつぎに向かう若い海女さん (飯田竜氏撮影) 船上からコンプレッサーで送られる空気を吸いながら海藻や貝を採る
「面水漁法」に使用するマスクとメガネを装着した姿  (齋藤典子撮影)

須崎区有文書撮影の経緯

 台湾調査がコロナ禍でできないため、2021年は、国内の調査地である下田市須崎地区の社会構造やテングサ産業の成立過程について、地元の方々の協力を得ながら調査を進めることとなった。須崎の海女のテングサ漁の歴史や漁民社会の構造を知る上で重要な史料が下田市須崎地区には残される。西暦1590年(天正18年)から1962年(昭和37年)までのおよそ370年間にわたる地方文書である。同文書は「下田市須崎区有文書」として、現在、下田市須崎区協議会が所有するが、非公開史料のため、地元民でもその存在を知る人は少ない。保管場所は、海沿いに建つ漁業会館2階の資料室である。数年に一度、虫干しを行うなど、地元では保護管理に努めているが、経年劣化による虫喰いや湿気で、保存状態は良好とは言えない。更に津波災害の危険性を考慮すると、現況の保管場所については、須崎区協議会の懸案事項にもなっていた。
 これまで説明がなされていた文書内容は、本目録分1455点(状726、 縦帳 440、横帳148、綴り81、絵図面18、袋2、帳面40)、追加目録分149 点の総数1604点という事であった。本目録は、1981年(昭和56年)頃、下田市史編纂に携わる古川智氏、佐々木忠夫氏、高橋廣明氏を中心に作成された。追加目録は、その後、新たに見つかった区有文書149点の目録として、須崎区協議会員の有志により作成された。
 今回の須崎区有文書調査作業における私たち5名の役割は、須崎区協議会との話し合いで、既出目録に登載されていない文書「紙」類(中型段ボール箱2杯分)、綴り帳簿類30点を採録するとともに、全文書の写真撮影を行い、電子データとして残す作業を行うことである。また、これまで非公開であった「下田市須崎区有文書」を若い区民が中心となり、保全と活用を図るためのサポートを行う事である。

想像を遥かに超えた文書量と内容

漁民会館を使っての地方文書撮影(齋藤典子撮影)

 第1回目の初日は、地元の古文書研究会員と古谷野洋子さんで「本目録」「追加目録」の内容と文書史料の照合が終わったものから、写真家の古谷野曻さんと、文書を初めて撮る齋藤典子が撮影を始めた。齋藤は、2004年の虫干時に一度、文書を見せていただいたが、全容を見るのは今回、初めてであった。そのため、目録に「綴り」1点と記載される文書の実写数が200枚に及ぶなど、想像以上に重労働であることを身を持って知ることとなる。2日目以降、石川亮太さん、藤川 美代子さんの若手がテキパキと上手に撮影をこなす中、新たに見つかった綴り帳簿類30点の採録をおこなった。本目録、追加目録に記載があるものの原史料が見つからないなど、多くの疑問点が浮かび上がった。その為、朝8時30分から夕方7時頃まで作業を進めたが、全体の1/3程度しか、撮影ができずに今回の文書調査は終了することとなった。

伊豆産テングサの販売ルートと商品化の現場を知る

テングサでいっぱいになった須崎のテングサ小屋(齋藤典子撮影)

 須崎の海女や海士が採ったテングサがどのようなルートで消費地に運ばれ、製品として消費者に供されるのか、南伊豆仁科にある伊豆漁業協同組合西伊豆統括支所で聞き取り調査を行う。入札に掛ける伊豆漁業協同組合8支所から集まるテングサは、分類学上の種と採取方法、採取後の処理状況によって、40種類にのぼることもある。入札は、毎年6月〜12月までの期間、6回行われ、15人ほど(伊豆半島6人、東京4人、横須賀1人、名古屋2人、長野2人)の仲買人が参加する。仲買人はそれぞれ懇意の長野、岐阜などの寒天製造業者や、トコロテン製造業者から注文を受けており、入札会場に並ぶ見本を見ながら、品質を確かめ、前回の相場を参考に入札の札を入れる。入札に際しては、各参加者の入札金額が公開される。これまでの最高価格は、2005年(平成17年)の25kg10万円であった。伊豆のテングサは、軸が太く弾力があるため、糊が強くて品質が良いと言われてきた。しかし、製造する商品や使用目的によって、テングサの種類や等級は、需要家ごとに異なる事が分かった。なお、漁協が行う共販の手数料は、出荷元の漁協によって、入札金額の10%〜15%と異なる。その後、地元須崎でテングサの仲買人をしていた土屋茂三郎さんに仲買人の役目と仕事上のエピソードを聞くことができた。また、土屋茂三郎さんから晒しテングサを購入し、トコロテンを製造する西林商店でその製造現場を見学させていただいた。

(文責:齋藤典子)

進捗状況および成果報告一覧はこちら

  • WWW を検索
  • サイト内を検索

ページトップ

神奈川大学
国際常民文化研究機構