共同研究

台湾の「海女(ハイルー)」に関する民族誌的研究—東アジア・環太平洋地域の海女研究構築を目指して—

中間報告および打合せ、下田市須崎の海女(海士)と住民が共に行うオカ磯採り 

日程:2019年6月28日(金)〜7月5日(金)
調査先: 神奈川大学横浜キャンパス、静岡県下田市須崎地区
調査者: 藤川美代子、許焜山、新垣夢乃、兪鳴奇、齋藤典子、安室知(6月28日のみ)

  ■ 舟でオカ磯採りをする海士兄弟  ■ 船上から銛で採ったサザエ

  ■ オカ磯に来た須崎の住民  ■ オカ磯のルールは頭を水面に着けずに漁をする事

オカ磯2年目の住民が持参する道具は手作り

 藤川班はこれまで、台湾東北角の潜水漁民を中心に調査を行ってきた。そこで、今回は共同研究者・許焜山氏を日本にお招きし、神奈川大学横浜キャンパスで中間発表会を行うと共に、安室先生にコメントをいただく機会を設けた。その後、日本の海女(海士)の潜水漁(採藻、採貝)との比較を目的に静岡県下田市須崎地区で7日間の調査を行った。
 史料によると同地は、江戸時代中期(1760年代)よりテングサ漁が行われ、現在も高級和菓子の材料となる良質なテングサの生産地である。さらに昭和の終わりまでは、かじきの突きんぼ漁が盛んに行われており、現在はキンメ漁の船が集積する伊豆屈指の漁業基地でもある。
 7日間にわたる調査内容は次の通りである。(1)須崎地区で決められた採藻・採貝の入漁日に合わせ、地元漁民の漁撈方法、漁場、使用漁具について海上からの参与観察(2)調査者自身が潜水し、海藻の種類、藻の分布、漁場の深さの確認(3)地元の高齢女性や引退海女が行うテングサ加工の作業見学(4)かじきの突きんぼ漁体験者・田中育男さんへのヒアリング(5)故郷にUターンし、30〜40代の仲間と藻や貝の潜水漁を行う若手漁民・飯田良さんへのヒアリング(6)伊豆漁業協同組合下田市場の見学(7)筑波大学下田臨海実験センター和田茂樹先生の下田近海の生態系と海洋資源のレクチャー(8)住民の多くが参加するオカ磯を陸から参与観察。本報告では、須崎住民が参加するオカ磯について述べる。

住民の不公平感を少なくするための工夫

 2019年現在、須崎区には612世帯1,387人が住む。その内、伊豆漁業協同組合の正組合員は825人。組合員の家族である准組合員は920人で、合計1,745人である。彼らはイセエビ、藻、貝を排他的に採る権利である「共同漁業権」を持つ。共同利用の為、「口開け」と呼ぶ入漁期や漁場、道具、漁法などが話し合いで決められる。例年7月〜9 月上旬までの「口開け」は、「オカ磯」が15日間。水中に潜って採藻、採貝ができる「潜り」は10日間で、入漁期間は潜水漁法より「オカ磯」の方が長い。「オカ磯」は、大潮の時に頭を水面に着けずに箱メガネで水中を覗き、銛や鉤ノミ、タモを使って採藻、採貝を行う漁法である。  
 「潜り」の期間を短くする理由は、漁法技術が優れた専業海女がアワビなどの取り尽くしを避ける狙いがある。その背景には、漁業専業者と一般住民との資源分配の格差を是正する目的がある。下田市須崎区の採藻・採貝漁が可能な日数は、年間1カ月にも満たない。しかし、住民はこの伝統的ルールを守り続ける。

多くの住民が採藻・採貝を行う「オカ磯」の日

 オカ磯の日、私たちは動力付きの小舟で爪木崎の先端にある「池の段」で海上からオカ磯漁を観察していた。70代半ばの海士の兄弟が手漕ぎ船でやってきて、鮮やかな手つきでサザエを次々と銛で突き、タモで掬い上げる。一方、磯伝いに腰まで海水に浸かりながら、女性2人が箱メガネで貝を拾う姿も見られる。その日、入漁した女性の多くは、家庭の主婦で専業海女ではない。彼らの多くは、サザエ、トコブシ、アワビなどを採ることを目的にやって来る。その中にはオカ磯を始めて2年目という東京出身の30代の主婦も居た。その日の収穫はサザエ10kg(800円〜1000円/1kg)、トコブシ2 kgであった。その多くは、親戚への贈答用だと言う。
 伊豆下田と台湾東北角の採藻・採貝漁を対照比較した時、その大きな違いは、海村住民の多くが採藻・採貝漁を行う点にある。さらに漁業協同組合の下部組織として、漁業者が「面水組合」「オカ磯組合」「エビ網組合」などの組合を作り、厳しい漁撈ルールを定め、住民に課す点である。慣習行為として踏襲してきた、厳しいルールが結果的に持続可能な資源保護に繋がっていると考えられる。

(文責:齋藤典子)

2019年度 伊豆下田予備調査

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