共同研究

東アジアの伝統的木造船建造および操船技術の比較研究

ヴェネツィアゴンドラ用櫂・稲城市川船船大工用具の実測・写真撮影調査

日程:2017年3月26日(日)~3月28日(火)
調査地:26日/船の科学館、27日/桧原村郷土資料館、28日/稲城市郷土資料室、ほか
調査者:織野英史

1.ヴェネツィアゴンドラ用櫂(3/26) 於:船の科学館

 船の科学館に収蔵されるヴェネツィアのゴンドラで使用された櫂を実物大で実測した。使用機材は、主に、1m方眼10mロール紙・直角定規(シンワ完全スコヤ150㎜)・型取りゲージ・鉛筆を使用し、時に三角定規やノギス、乾拓用にクーピーペンシルを使った。左上写真のようにロール紙を床に置いて紙テープで仮止めし、その上に対象の櫂を固定する。
 撮影はキャノンIOS Kiss Digital X2により、全体両面及び側面と細かな部分撮影も行った。
櫂の寸法は、全長418㎝、腕部径4.0×3.8㎝、羽部幅18.7㎝であった。櫂の長さはゴンドラの長さの40%といわれる。材の同定はしていないが、インドネシア産のラミーン材が現在の一般的材である。第2次大戦前はブナ材だったらしい。
 右上写真の櫂受(フォルコラ)はクルミの丸太材から作られる。漕ぎ手(ゴンドリエーレ)は櫂を両手で持ち、櫂受を通して櫂を斜めに挿しいれて漕いだ。
 この前向き漕ぎの操法は中国の櫓に相当する。櫓は現在では早緒と入子・櫓杭によって櫂と区別されるが、前向き漕ぎ櫂から発生したことが考えられる。したがって、中国や東南アジアで見られる前向き漕ぎ櫂をも含めて調査の対象にする必要があろう。
 ヨーロッパでは、ヴェネツィアのゴンドラの櫂のほかにポルトガルのポルトで見られる大型の櫂も櫓との共通性が窺える。今後、調査する必要があるだろう。

2.稲城市川船船大工用具(3/28) 於:稲城市

 稲城市指定文化財に指定されている船大工用具から、接合に関する摺鋸(写真上)、釘差鑿(写真中2枚)、充填に関する鑿打(写真下)の実測・写真撮影を行った。
 川船に関する用具には、岐阜県長良川水系の「モジ」のように釘差鑿の一種でありながら、錐の一種「もじり」の語彙に似る呼称を持つ道具が使用されるなど、大陸(舞錐・弓錐を使用)との関係を考える上で重要な事例が少なくない。
 今回の調査はその意味で行ったが、多摩川水系のものは道具・船釘(右下写真)ともに海用のものとの差が特に見られなかった。
 右中写真の釘差鑿の2枚は、穂先の元と先近くの幅がほとんど変わらない関東型そのものである。
 ともあれ、川船の船大工道具は、今後とも注視していきたい。

(文責:織野英史)

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横浜港の海の景観調査と研究会報告

日程:2017年3月26日(日)~3月27日(月) 
調査地:日本郵船歴史博物館、横浜港と赤レンガ倉庫・運河、神奈川大学横浜キャンパス3号館展示ホール企画展示室
調査者:26日/出口正登、出口晶子 
研究会:27日/昆政明、小熊誠、出口正登、出口晶子
 王蕾、兪鳴奇(歴史民俗資料学研究科大学院生)

■ 写真1 横浜の屋形船と運河 ■ 写真2 横浜港連絡船の発着

 ■ 写真1 横浜の屋形船と運河  ■ 写真2 横浜港連絡船の発着

写真3 神奈川大学日本常民文化研究所企画展「和船の構造と技術」の木造船展示(ジャンクと弁才船)

写真3 神奈川大学日本常民文化研究所企画展「和船の構造と技術」の木造船展示(ジャンクと弁才船)

 26日は日本郵船歴史博物館を見学後、横浜港一帯の船を使った遊覧事業等の現地調査を実施した。日本各地の海港では港の歴史文化景観の復元や新しい港の景観創造が活発化し、都市における新たな観光名所として様々な取り組みがある。横浜港はその先進地であり、幕末から明治の居留地文化とその後の発展をシンボライズした港の再編がめざましい。赤レンガ倉庫や馬車道、フラワー公園の整備とあわさって、運河では屋形船や竜頭船などもあり、和洋中、近代と現代が混在した風情が横浜らしさを醸しだしている。地元市民の憩いの場としても定着し、この数年の間にもその取り組みは着実に進展するとともに、海外からの観光客の増加が顕著であることが今回の実地調査では確認できた。
 27日は神奈川大学の日本常民文化研究所企画展「和船の構造と技術」展示資料調査ののち、午後から研究報告会を行った。出口正登が「写真が語る木造船のゆくえ」と題し、スライドを使って沖縄のサバニの現況を報告、出口晶子が「東アジアの木造船文化継承のゆくえ」と題し、日本と中国共通の課題について報告、参加者全員で次年度7月の公開報告会と3月刊行の最終報告書の素案を討議検討した。

(文責:出口正登・出口晶子)

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