民具の機能分析に関する基礎的研究
第5回共同研究会:狭山地区民具調査
日程:2017年12月16日(土)~12月17日(日)
調査先:所沢市山口民俗資料館、武蔵村山市立歴史民俗資料館
調査者:神野善治、眞島俊一、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、鍋田尚子、宮本八惠子、長井亜弓
オブザーバー/宮坂卓也
1日目:「所沢飛白」について宮本氏が解説。手前の民具は絣をつくるための道具
2日目:武蔵村山地区の特徴について解説していただき、その後、
収蔵庫へ
今回の調査の目的は狭山丘陵周辺の民具、なかでも「織機」を構成する棒の機能を確認するための調査である。
1日目は所沢市山口民俗資料館を訪問。本プロジェクトメンバーであり、「所沢飛白(かすり)」の調査・研究および継承に、長年にわたり取り組んでいる宮本八惠子氏に、木綿絣の織機を構成するそれぞれの「棒」にどのような機能があるのをレクチャーしていただいた。資料館のある山口地区は、江戸時代後半から農家の副業として機織が盛んに行われていた地域だっただけに、展示室には織物製作のための民具が系統立てて整理保存されている。平成元年には「所沢飛白」の製作技術を記録・保存するためのビデオ製作が行われ、さらに平成13年からは宮本氏を中心とする「絣研究会」のメンバーが、実際に生業とされていた人々からの聞き取り調査と指導を通して、調査記録や映像のみならず、身体で技術を継承することを心がけてきたという経緯が語られた。実際に織機を動かし、織り進めながらレクチャーしていただくことにより、織機を構成するそれぞれの「棒」がどのように機能しているのかを確認することができた。
2日目は武蔵村山市立歴史民俗資料館を訪問。山口地区にほど近い、同じ狭山地区の民具を確認することで、どのような共通性や差異が認められるのかを調査した。武蔵村山は「村山大島」の名で知られる絹織物の産地である。前日に「所沢飛白」の織り手さんの一部が後年「村山大島」を手掛け、そのために織機の一部を改造したという話も伺っていたので、収蔵品の中でも特に今回は織機に注目。素材の違いや時代の違いによる構造の変化とその機能について確認することができた。その後、狭山地区の民具についての理解をさらに深めるため、東大和市立郷土博物館にも立ち寄り、メンバーそれぞれに発見のある調査となった。
(文責:神野善治)
第4回共同研究会:『箕サミット』への参加 ほか
日程:2017年11月13日(月)~11月14日(火)
調査先:東京文化財研究所、神奈川大学横浜キャンパス27号館 A-201号室
参加者:神野善治、眞島俊一、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、鍋田尚子、長井亜弓
オブザーバー/宋 奇泰(木浦大学校島嶼文化研究院)、神野知恵(通訳)
■ 1日目:箕づくりの実演を拝見しながら、聞き取りを行うメンバー。東文研主催『箕サミット』にて
■ 2日目:前日の調査結果をふまえつつ、「民具の機能」について議論。神奈川大学国際常民文化研究機構にて
1日目は東京文化財研究所が開催(今石みぎわ氏企画による)『箕サミット〜編み組み細工を語る』に参加。「太平箕(秋田)」「木積の箕(千葉)」「論田・熊無の藤箕(富山)」という3地域の箕づくりの実演を見学し、箕の形態と機能の特徴をつぶさに比較する機会に恵まれた。平成19年度に鹿児島県歴史資料センター黎明館と福島県立博物館との共同企画「樹と竹:列島の文化、北から南から」の中で、日本の北と南の「箕づくりの成り立ちの違い」に着目された川野氏・佐々木氏の両名や、実験考古学の立場から草木素材の編み方について研究されている山田氏より、それぞれの箕づくりの技術者に対して幾度も鋭い質問がなされた。後半のパネルディスカッションを含めて大いに学ぶところがあった。
2日目は神奈川大学で研究会を実施。オブザーバーとして木浦大学校の宋 奇泰氏も参加され、前回の研究会に引き続き「民具の機能」をどうとらえるかについて神野から提案。また、前日の調査を振り返りながら、研究主題「民具の機能」について討論を行い、「ラオスの民具」や「古代の籠編み」の事例と比較するなど活発な議論が続いた。
(文責:神野善治)
第3回共同研究会:米沢民具調査
日程:2017年10月27日(金)~10月28日(土)
調査先:山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館、高畠町郷土資料館、赤崩草木染研究所
参加者:神野善治、佐野賢治、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、鍋田尚子、長井亜弓
■ 渡邉淑恵氏による綛(復元)の実演。うきたむ風土記の丘考古資料館にて
■ 高畠町郷土資料館。「大谷地」を開いた農具の前で意見を交わす
問題提起および討論「民具の機能とは何か」
1日目は山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館を訪問。開催中の第25回企画展「木と生きる—弥生・古墳時代の木製品—」を見学した。この、弥生時代以降の遺跡からは、農耕にかかわる木製品(各種の鍬、鋤、それらの柄)などのほか、製糸にかかわる道具や織機の部品なども出土している。これらを民具学で蓄積された情報と比較することで、民具を機能や形態からとらえるヒントが得られることが期待できる。館長の渋谷孝雄氏と、本研究チームのメンバーであり、企画展ともかかわりのある山田昌久氏の案内を得て、出土遺物を見てまわり、出土遺物そのものを手掛かりとしてきた考古学の手法を伺うとともに、モノの背景にある情報を聞き取りなどによって引き出してきた民具学からの視点との違いなどについて、意見交換を行った。
続いて、「高畠町郷土資料館」を訪問。湿地帯を開拓した「大谷地」での農具など高畠地区特有の民具について調査した。さらに夕刻、「赤崩草木染研究所」へ移動。伝統的な技法を継承して、製糸から染織までを手掛けてきた研究所での活動について、山岸幸一氏よりお話を伺った。また、うきたむ風土記の丘考古資料館の復元「織機」を念頭に、歴史的時間の流れと道具との関係などについて話し合った。
2日目は場所を米沢市内に移して「民具の機能とは何か」について改めて問題提起を行い、参加メンバーとともに今後の研究をどのように展開するか、話し合いを深めていった。午後からは、日本民具学会第42回米沢大会に合流し、さらに翌29日には、本研究チームの佐々木長生氏が民具の名称に関する発表を、神野が民具の形態と機能に関連する研究発表を行った。
(文責:神野善治)
第2回共同研究会:砺波・氷見民具調査
日程:2017年9月30日(土)~10月1日(日)
調査先:砺波民具展示室、氷見市立博物館・氷見市文化財センター
参加者:神野善治、眞島俊一、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、長井亜弓
砺波/齊藤恵子、安カ川恵子、渡辺礼子、新藤正夫、河合潤子 氷見/廣瀬直樹
砺波民具展示室にて。鋤の形態変化について意見を交わす
氷見市文化財センターにて。民具に遺された使用痕を確認
「民具の機能分析に関する基礎的研究」の現地調査として富山県砺波市と氷見市を訪ねた。重要有形民俗文化財の「砺波の生活・生産用具」と登録有形民俗文化財の「氷見及び周辺地域の漁撈用具」について、今回のテーマである「民具の機能と形態」の観点から、個々の資料を見直す作業を試みた。
第1日目は砺波民具展示室を訪問。砺波郷土資料館元館長で地理学者でもある新藤正夫氏と地元で長く農業を営んできた河合潤子氏にも参加いただき、砺波の風土の特徴とともに、現在展示室に収められている農具を中心に、その形態のあり方を観察し、実際のくらしの中でどのように機能してきたのか、聞き取り調査を行った。
展示物を実際に手にしていただき、使用の際の身体がどのように民具と接しているのか、力はどのような方向にかけられているのかなどを実演していただいたり、農事暦に沿ってどのような農作業が行われ、その際、どう民具が活用されたのか聞き取ったりしながら、映像や写真で記録。砺波の民具をより深く知ることができた。
また、佐々木長生氏が、会津只見の民具から「柄のある民具」を抽出し、機能分類を試みた考察を発表、神野からは砺波の民具から見た「柄の持ち方のバリエーション」についての試案を報告するなど、参加者それぞれの立場から活発な意見交換が交わされた。
第2日目は氷見市立博物館を訪問。砺波の民具との違いを確認するとともに、砺波民具展示室には収集のない漁撈用具、氷見市ならではの民具について調査した。その後、登録有形民俗文化財「氷見及び周辺地域の漁撈用具」をはじめ、農具・生活用具が収蔵されている「氷見市文化財センター」へ移動。民具に刻まれた使用痕などを確認し、今後の研究をどう進めるか等、話し合いを行った。
(文責:神野善治)