民具の機能分析に関する基礎的研究
2018年度ベトナム(フエ)調査
日程:2018年10月21日(日)~10月25日(木) 3泊5日
調査先:ベトナム社会主義共和国・フエ近郊の村
調査者:神野善治、佐野賢治、眞島俊一、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、鍋田尚子、長井亜弓
■ フエ科学大学歴史学科の先生方と調査メンバー(歴史学科付属博物館にて)
■ 農婦より農具の使用法について聞き取りを行う(タン・トアン村農業博物館にて)
■ 漁船までのハシケ代わりに使用されている網代編みの籠舟(アン・ズン村にて)
■ 籠舟の製作法について調査(アン・ズン村にて)
日本からフエまでの直行便はなく、ホーチミンもしくはハノイを経由して最短でも10時間近くかかる。初日と最終日は移動に終始するため、5日間の調査とはいっても正味は2日半ほど。限られた時間ではあるが、今回は前回2月に訪問したフエ科学大学歴史学科の協力のもと、フエを拠点に、タン・トアン村、ヴァン・テー村、アン・ズン村、プーディエン村、シン村の5村を訪問し、農具、漁撈具、籠舟、焼酎蒸留用具等を調査。ベトナムの民具について情報収集を行うとともに、民具リストの充実を図ることができた。以下に今回の調査の概略を紹介する。
10月22日(月)調査1日目:フエ科学大学を訪問。グエン・ヴァン・ダン歴史学科長(歴史学)、ムェン・マ・ハー先生(人類学・歴史学・考古学およびフン川周辺の民俗専攻)、今回の調査のコーディネイトを引き受けてくださったグエン・ファン・クァン先生(考古学)と親交を深めるとともに、歴史学科付属博物館が収蔵する少数民族の背負い籠コレクションなどを調査。日本の出土遺物との類似性や竹の文化のあり方等々、意見交換を行った。その後、フエ中心部より東に位置するタン・トアン村の農業博物館を再訪。2018年2月の調査資料をもとに作成したベトナムの民具表の充実を図るとともに、それら農具を実際に使用していた農婦に実演を依頼。使用時の身体作法についても聞き取りを行うことができた。さらに、タン・トアン村にほど近い、ヴァン・テー村ではバナナの葉を使った伝統的なチマキ製法の様子や、もろみを利用した蒸留酒の装置、台所を中心とした生活用具についても記録することができた。
23日(火)調査2日目:かつてのボートピープルたちが多く暮らす海辺の村、アン・ズン村を訪問。漁船までのハシケ代わりに利用されている籠舟の使用状況や製作現場を調査。その後、タムジャンラグーンでのエビ養殖や竪長の筌を用いた網ヒビ、小舟を使った刺網や投網漁などを観察できた。また、砂丘上の広大な墓地を見学、多様な建築様式の墓に目をうばわれた。プーディエン村では短時間ではあったが海辺の漁村も垣間見ることができ、ベトナムの竹利用等についてさらに調査を深める必要があるなど、今後の課題もいくつか見えてきた。
24日(水)調査3日目:フン川流域に暮らす水上生活者の家を訪問。生活実態について聞き取りを行う。また、舟端を叩きながら、足を使って櫂を操り、刺網へ小魚を追い込む川漁の様子なども間近に記録することができた。その後、前回も訪れた伝統的な版画を制作しているシン村へ移動。許された時間内、村内を歩き、生活の様子を観察したのち、帰国の途についた。
(文責:神野善治)
2018年度第3回共同研究会
日程:2018年9月22日(土)13:00~16:30、9月23日(日)9:00~15:00
会場:東大和市郷土資料館、神奈川大学国際常民文化研究機構27号館A-201号室
参加者:神野善治、眞島俊一、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、長井亜弓
宮本八惠子(22日)、鍋田尚子(23日) オブザーバー/宮坂卓也
宮本氏による「ハタマキ」作業の実演
「出土木製品用材データベース」について解説する山田氏。考古学と民具学とが連携する意義など、熱心な議論が交わされた
第3回共同研究会1日目は、本プロジェクトメンバーの宮本八惠子氏を中心とする所沢飛白研究会が、東大和市郷土資料館で絣織(かすりおり)の復元作業を公開するのに合わせて開催。機織作業に使われるさまざまな「棒」(織機を構成する棒を含め)が、それぞれどのような役割を担い、どんな働きをするのか、宮本氏らの実際の作業を通して観察させていただくことにした。2017年度第5回共同研究会に引き続いての調査である。
この日行われたのは経糸の下拵えの一工程で、経糸をオマキに巻きとる「ハタマキ」の作業から、経糸の幅出しのために使っていたマキオサを抜く「アヤ返し」の作業まで。アヤ返しの済んだ経糸は、このあと綜絖と筬に通されて(引き込み)、織機と連結(機掛け)し、いよいよ布へと織り始められることになる。経糸を巻いた棒と織り機の棒がどのように連結されて「織る」という機能を実現させるのか、また、ハタマキの作業では、糊のついた経糸をさばく人間の指も棒状の道具として機能していること、織機の一部としての棒が指や手とどのように絡むかなど、つぶさに見ることができた。
1日目の後半と2日目には研究報告会も開催し、山田昌久氏から「木製遺物の形態分類と検索システムの構築」についての発表、神野からは「民具の基本形態を抽出する」と題し、形態分類についての試案について発表を行った。
(文責:神野善治)