民具の機能分析に関する基礎的研究
2019年度 佐渡市民具調査
日程:2020年2月22日(土)~ 2月24日(月・祝)
調査先:新潟県佐渡市(新穂歴史民俗博物館、両津郷土博物館、佐渡博物館、佐渡国小木民俗博物館、相川郷土博物館)
調査者:神野善治、眞島俊一、山田昌久、山川志典、佐々木長生、川野和昭、鍋田尚子、長井亜弓
本共同研究では、「民具の機能分析」を行うために、国指定の重要有形民俗文化財(以下:重有民)を基礎資料に位置付け、主に富山県の砺波の民具を主要な分析対象としてきた。最終年度にあたり、本調査では、農業中心の砺波の民具と性格の異なる(海の漁撈や鉱山の民具など)重有民コレクションを4件も保有する佐渡市を訪ね、資料を実見するとともに、今後の研究の展開を検討することをめざした。
初日2月22日は、新穂歴史民俗博物館、両津郷土博物館を訪問。両津の重有民「北佐渡(海府・両津湾・加茂湖)の漁撈用具」(2,162点)は、北佐渡地域に伝わる漁撈用具を中心に、磯ねぎ・釣漁・網漁などの伝統漁法の用具や関係資料などが収集・保存された優れた民俗資料である。これらの民具調査の中心となって長年尽力されてきた新潟大学名誉教授の池田哲夫氏にもお越しいただき、詳しいお話を伺うことができた。
2日目2月23日は、佐渡博物館、佐渡国小木民俗博物館と千石船展示館、佐渡市宿根木伝統的建造物群保存地区を訪問。佐渡国小木民俗博物館は1920年に建てられた木造校舎をそのまま利用した博物館で、館内には30,000点余りの民俗資料が展示され、なかでも「南佐渡の漁撈用具」(1,293点)と「船大工用具及磯舟」(1,034点)は重有民に指定されている。千石船展示館には実物大の千石船が復元展示され、復元に関わられた高藤一郎平氏にご案内をいただき、船内で過ごす様子を体感することができた。さらに、地元ガイドで「御宿 伊三郎」を営む石塚輝行氏に宿根木の町並をご案内いただき、この地域の有りし日を思うとともに、収集された民具の背景に思いを馳せた。
最終日2月24日はまず、重有民「佐渡海府の紡織用具」(計542点)を有する相川郷土博物館を訪問。元館長の柳平則子氏にもお越しいただき、大佐渡北海岸地域の紡織用具を中心とした紡織習俗の資料についてレクチャーしていただいた。柳平氏は40年以上、地域の織物の伝承活動にも携わってきた方である。大佐渡北海岸一帯は冬の季節風や潮風が強く、麻や木綿を栽培するには厳しい環境だったため、身近なシナ・フジ・ヤマソなどの繊維材料を利用した衣服づくりが長く行われてきた。しかし、江戸時代中期以降、西日本からの廻船が繰綿や古木綿を持ちこむようになり、従来のフジ・シナ・ヤマソをタテ糸に、古木綿を細く裂いてヨコ糸にして織る「裂織り」が始まったという。収集され整然と整理された紡織用具は、地域の紡織習俗の様相だけでなく、衣料生活の推移を知る上でも貴重な資料であるといえよう。
それぞれが異なるテーマを追求してきたメンバー各々、貴重な資料の数々を目の当たりにし、さまざまに発見があった。本調査で得た知見を今後の整理・研究に生かす予定である。
なお、今回の調査に際しては、佐渡学センターに多大なるご協力を賜った。ここに改めて謝意を表明したい。
(文責:神野善治)