戦前の渋沢水産史研究室の活動に関する調査研究
塩の道に関する調査の概報
日程:2018年1月19日(金)、1月22日(月)
調査先:長野県大町市・塩の道ちょうじや、同県松本市・松本市立博物館、松本市時計博物館、愛知県豊田市足助地区
調査者:星 洋和
■ 写真1 再現された歩荷の姿(塩の道ちょうじや所蔵) ■ 写真2 初市で繰り出されていた宝船(松本市立博物館所蔵)
写真3 市神祭之図(原本:宮澤辰彦氏所蔵)
写真4 観音山から見た足助の町
共同研究「戦前の渋沢水産史研究室の活動に関する調査研究」に関して、星洋和は塩の道に関する研究を行った。
楫西光速は渋沢敬三らの勧めもあって水産史研究室で生産技術や経済に着目して塩の研究を行ったが、渋沢自身は、『塩俗問答集』に見られるように塩の流通・消費・象徴性に重点を置いた研究を行っていた。この渋沢の観点を引き継いだのが宮本常一である。彼は塩の民俗に関する調査・研究を行い、その成果は『塩の道』や『日本塩業大系・民俗編』などを通じて世に広く知られている。
このような渋沢や宮本の研究を理解することは、水産史研究室における塩の研究の位置づけを考える上で有効なものであろう。そこで調査者は、渋沢らが塩の輸送者として着目した歩荷や中馬、彼らが往還した「塩の道」に関する調査を行った。
1月19日には、長野県の大町市・松本市で調査を行った。大町市では塩の道ちょうじやを訪ね、黒川恵理子氏から塩問屋であった平林家の旧邸や、物資の輸送に従事した歩荷・牛方などについて解説を受けた(写真1)。松本市では、松本地方の民俗やかつて塩市だったとされるあめ市(初市)についての調査を行った。松本市立博物館では学芸員の窪田雅之氏から、松本市重要有形民俗文化財である初市の宝船(写真2)や小正月の火祭り・三九郎、国指定重要有形民俗文化財である七夕人形などの年中行事に関する解説を受けた。また、窪田氏から松本市時計博物館で「あめ市歴史展示「福の神とあめ市」」を行っているという案内を受け、時計博物館主査である竹内祥泰氏の解説のもと、近世期のあめ市を描いた絵巻物の写真(写真3)や、明治時代の市神拝殿の写真、福の神を題材とする押絵雛などを観覧した。
1月20~21日の大阪での研究会を終えたのち、22日に調査者は愛知県豊田市足助地区で調査を行った。足助地区は三河から信濃へと続く伊那街道の要地であり、現在でも古い町並みが残っている(写真4)。今回調査者は、中馬に関すること、そして町の歴史について調査するため、町の巡見の他、中馬館の見学、三州足助屋敷での機織り体験などを行った。
今回の調査では、塩の生産という観点からは見えてこない、塩の流通に関する歴史や民俗について知見を得ることができた。楫西らの研究の方向性の違いと、それぞれの研究が補い合う部分について考える上で、今回の調査は貴重な機会となった。
(文責:星 洋和)