昭和戦前期の青年層における民俗学の受容・活用についての研究
山形県新庄市における調査
日程:2019年2月18日(月)~2月20日(水)
調査先:雪の里情報館、新庄亀綾織伝承協会(山形県新庄市)
調査者:丸山泰明、木村裕樹
旧農林省積雪地方農村経済調査所庁舎(今和次郎設計、1937年建築)
雪の里情報館の展示
昭和戦前期において、日本青年館や大日本連合青年団と関わり合いながら郷土の更生に取り組んだ青年たちの実像を探るために、山形県新庄市において調査を行なった。
今回の調査において新庄を選んだのは、特に熱心だった青年たちが存在し、また資料の存在が見込まれたからである。日本青年館内にあった大日本連合青年団郷土資料陳列所に新庄から資料を寄贈している人物として小野恵敏や佐藤太吉の名前が残されている。また、小田嶋寅蔵という人物が大日本連合青年団の助成を受けて郷土の織物である亀綾織を調査し、『郷土工芸に関する研究報告』(大日本連合青年団郷土資料陳列所、1936年)に「郷土特産亀綾織の研究」を執筆している。
調査において、まず雪の里情報館を訪ねた。雪の里情報館は、1933年に設置された農林省積雪地方農村経済調査所の業績を後世に伝えるとともに、雪国文化について市民の学習を促すための施設である。館長にご案内していただきながら展示を見学した後、資料の調査を行なった。調査の結果、小野恵敏は新庄町青年団の北部支部長であり、松岡俊三の雪害救済運動に共鳴し、青年層に働きかけて最上郡雪害解決期成連盟の礎を築いた人物であったことがわかった。また佐藤太吉は「小野君とは兄弟よりも親密」な関係であり、二人で産業の開拓・発展に力を注ぎ、自らも新庄地方の履物の変遷についての研究に取り組んだ人物であったことがわかった。さらに雪の里情報館では、所長の山口弘道の依頼を受けて柳宗悦らが指導した民藝運動に関する資料についても調査を行なった。
亀綾織について研究した小田嶋寅蔵について調べるにあたっては、新庄亀綾織伝承協会を訪ね、話をうかがった。残念ながら、小田嶋寅蔵についての情報を得ることはできなかったが、亀綾織の歴史や今日における復興について教えを受け、亀綾織を織る様子についても見学することができた。亀綾織という美しい織物と、その1930年代当時の状況について学ぶことができ、地域の伝統的な産業の復興のあり方を考える上で非常に大きな刺激を受けることができた。
1930年代の山形県新庄における産業振興や生活改善については、民藝を指導した柳宗悦や、あるいは積雪地方の実験農家を設計した今和次郎の業績が語られることが多い。もちろん、柳宗悦や今和次郎のような東京・中央の知識人の役割がたいへん重要であることは言うまでもないが、その一方で、小野恵敏や佐藤太吉・小田嶋寅蔵のような新庄に暮らす青年たちが自分たちの郷土をより良くしようと尽力したことも忘れてはならないだろう。今回の調査は、日本青年館や大日本連合青年団が進めようとした郷土の更生を、地方の青年がどのように受け止め、取り組んだのかを知ることができるものとなった。
(文責:丸山泰明)
国立国会図書館および日本青年館での調査
日程:2018年2月12日(火)~2月13日(水)
調査先:国立国会図書館、日本青年館
調査者:丸山泰明
国立国会図書館および日本青年館にて文献調査を行なった。2月12日には国立国会図書館にて、日本青年館および大日本連合青年団が発行した著作物等にについて調査した。2月13日には、日本青年館で調査を行なった。具体的には、『日本青年新聞』に目を通し、郷土芸能や郷土資料陳列所、副業品などについての記事をピックアップし、記事目録を作成する作業に取り組んだ。これらの作業により、地域の発展のために青年に期待が寄せられ、郷土の芸能や工芸が見出された時代を明らかにしていくための基礎データを蓄積することができた。
(文責:丸山泰明)
2018年度 第3回研究会の開催
日程:2019年1月26日(土)~1月27日(日)
会場:神奈川大学日本常民文化研究所
参加者:丸山泰明、小熊誠、木村裕樹、小林光一郎、黛友明、室井康成
神奈川大学日本常民文化研究所にて、今年度第3回目となる研究会を開催した。
1月26日には、黛友明が「郷土舞踊と民謡の会における運営と演出」と題して発表した。日本青年館を会場として催された郷土舞踊と民謡の会(1925年から1936年まで全10回開催)は単なる民俗芸能の上演イベントではなく、民衆の趣味向上や民衆娯楽研究を目的の一つとした日本青年館の事業として行われていたことを示し、同時代的意味を確認した。その上で舞踊研究家である小寺融吉の演出について批判的に検討した。発表後の討論では、日本青年館での調査で発見された第8回郷土舞踊と民謡の会(1934年)の舞台写真なども見ながら、演出・上演のあり方について議論した。
1月27日には木村裕樹が「副業生産と村落—郷土資料陳列所がめざしたもの」と題して発表を行った。同時期のアチックミューゼアム(今日の神奈川大学日本常民文化研究所)によって収集された民具とも比較しながら、日本青年館内にあった大日本連合青年団郷土資料陳列に集められた資料の特徴を検討した。その上で、郷土資料陳列所が、販売品として製作された生活道具や紡織・染色などの原材料を収集したり、郷土工芸に対する研究補助を行っていたりしたことを示し、副業生産による村落経済の向上を目指していたことを指摘した。発表後の討論では、同時代における農山漁村経済更生運動や民藝運動とも関連づけながら議論した。また、研究発表の後、今年度の残りの期間における調査のスケジュールや、来年度に刊行する報告書の内容・構成についての打ち合わせを行った。
(文責:丸山泰明)
日本青年館での調査
日程:2019年1月7日(月)~1月8日(火)
調査先:日本青年館
調査者:丸山泰明、黛友明
日本青年館の図書・資料センターにおいて、戦前期のものを中心に、民俗や郷土に関わる資料の調査と写真撮影を行った。具体的には、郷土舞踊と民謡の会や郷土資料陳列所、副業品の展覧会などについて、日本青年館や大日本聯合青年団の事務書類、および『日本青年新聞』などを調べ、その実態をより明らかにする作業に取り組んだ。
また、これまで調査によって、民俗学者の瀬川清子による若者組・娘組についての昭和10(1935)年の日付をもつ聞き書きの報告書が存在していることがわかっていたが、今回の調査の結果、瀬川の他に民俗学者の関敬吾による聞き書きの報告書も存在することが新たにわかった。これらの民俗学者と日本青年館・大日本聯合青年団の関わりについて、さらに調査を進めていくことにしたい。
(文責:丸山泰明)