熊野水軍小山家文書の総合的研究
白浜町での出土遺物調査
日程:2019年2月7日(木)~2月8日(金)
調査先:日置川拠点公民館(和歌山県西牟婁郡白浜町)
調査者:坂本亮太、北野隆亮、佐藤純一、呉座勇一
安宅本城跡遺物調査の様子
白浜町日置川拠点公民館において、小山氏とも非常に関わりが深い安宅氏の本拠である安宅本城跡出土遺物の調査をおこなった。
今回の調査では、安宅本城跡出土遺物(第4・5次調査分)の年代を検討し、各遺物の種別等の分類、破片数のカウントをおこなった。今後の詳細な検討が必要ではあるものの、縄文・弥生時代の遺物をはじめ、平安・鎌倉時代以降、江戸時代前半までの遺物を多く確認でき、日置川下流域が古くより人の活動が見られる重要な場所であったこと、城館としての存続期間などが見えてきた。また鉄砲玉や国産・輸入陶磁器等威信財が見られるなど安宅氏の力量もわかり、さらには伊勢・三河など東海産の遺物(山茶碗・常滑焼など)、播磨・備前など瀬戸内方面からの遺物(備前焼や播磨型土鍋など)といった東西双方の遺物が見られ、紀伊半島の東西交流の変遷や位置づけを探るうえで重要な遺跡であることを改めて認識することができた。
また、既に八幡山城・平須賀城・大野城・鶴ヶ城など紀伊国内の拠点城郭の遺物組成については検討を加えているが(『きのくにの城と館』[和歌山県立博物館 2014]、『安宅荘中世城郭群総合調査報告書』[白浜町教育委員会、安宅荘中世城郭発掘調査委員会 2014])、今回の調査でそれら既存の成果と比較するための材料を得ることができた。引き続きデータの集約・検討を続けていきたいが、紀伊半島の東西交流事情、紀南武士の拠点城館についての新たな資料と知見を得ることができた。
(文責:坂本亮太)
三重県総合博物館での調査
日程:2019年2月1日(金)
調査先:三重県総合博物館
調査者:坂本亮太
三重県総合博物館(外観)
三重県総合博物館において、貞和2年(1346)12月2日付け法勝寺公文所注進状(田中繁三氏旧蔵文書)の熟覧をおこなった。
この文書は、東福寺僧真歳等が淀津(京都市)において法勝寺御塔の大柱3本を点定し取ったという罪状を、法勝寺公文所が訴えたものである。このなかで、法勝寺御塔柱は恵鎮円観が勧進上人として沙汰し、熊野山杣人藤宇七郎が鵜殿庄司(鵜殿氏)の送文を副えて大柱3本を渡辺浜(大阪市)まで運送し、その後、法勝寺問丸の大蔵入道が急用のため先に2本だけ淀津へ送ったところ、淀で柱を真歳等に押し取られるという事件が起こったと記される。鵜殿氏が新宮・東福寺の問丸を兼ねていたこと、また熊野の材木が渡辺浜・淀津など大阪湾・淀川を通り、京都まで運送されていたことがわかる興味深い文書である。熊野の山林資源の輸送ルートや、それに関わって問丸をつとめた紀南の武士(熊野水軍)の存在形態を知ることができた。
(文責:坂本亮太)
岐阜市歴史博物館での調査
日程:2019年1月29日(火)
調査先:岐阜市歴史博物館
調査者:坂本亮太
岐阜市歴史博物館(外観)
岐阜市歴史博物館において、年未詳3月28日付け豊臣秀吉朱印状1通の熟覧をおこなった。
この文書は、豊臣秀吉が堀内氏・安宅氏・小山氏・高川原氏・周参見氏という紀南の武士たち(熊野水軍各氏)に宛てたものである。秀吉は藤堂高虎を介して熊野檜皮を熊野水軍各氏に要求していたが、進上されないことに対して出した催促状である。堀内氏・安宅氏・小山氏・高川原氏・周参見氏が、熊野檜皮等の材木調達に関わっていたこと、また秀吉の催促にも容易に応じない存在であったことなどがわかり興味深い。久木小山家文書との関係性も注目され、熊野の山林資源と密接に関わる熊野水軍の存在形態をより知ることができた。
(文責:坂本亮太)
天理大学附属天理図書館での調査
日程:2019年1月28日(月)
調査先:天理大学附属天理図書館
調査者:坂本亮太
天理大学附属天理図書館(外観)
天理大学附属天理図書館にて、「熊野別当堀内家文書 朝鮮古帖」と題する古文書3巻(約90通)の画像(デジタル)の閲覧をおこなった。堀内氏は、戦国・織豊期(16世紀末)に熊野川河口部を中心に勢力を有した一族である。
堀内家文書のなかには堀内氏に宛てた新宮庵主等の書状も含まれ、戦国・織豊期の新宮(熊野川河口部)の様子を伺うことができる。例えば、新宮の町中が整備されていく状況(「御建立之庵主一段見事ニ出来」「御町中屋つくりの事にし町よりも見事出来」「新宮之御町中段々出来申候」)などの記されている点が興味深い。また別の文書では、大水で鵜殿(三重県紀宝町)の浜に材木が多く流れてきて(「ながれ木多候」など)、それを神倉神社や新宮城の造営にあてたことが記されていたり、大坂城・伏見城の材木に関することなども記されていたりと、熊野川上流部が豊富な山林資源を抱えた地域であったこともわかり、日置川流域と共通する点も確認できた。
(文責:坂本亮太)