共同研究

熊野水軍小山家文書の総合的研究

和歌山市立博物館所蔵 林家文書調査

日程:2019年6月28日(金)~6月30日(日)
調査先: 和歌山市立博物館
調査者: 薗部寿樹、坂本亮太

 ■ 和歌山市立博物館  ■ 収蔵庫前の作業室 作業台と林家文書コンテナ

林家文書のコンテナ群

 2019年6月28日~30日、小山家文書の比較対象という観点から、和歌山市立博物館が所蔵する林家文書を調査した。林家は紀伊国和太荘公文の家柄で、500通ほどの文書を今に伝えている。
 小山家文書と比べて、林家文書には中世前期の文書の伝来数がやや多い。また公文職や神主職などの荘園所職に関する文書が目立つ。これは、林家が公文などの荘園所職に依存して家の経営を行っていたことの証左であろう。
 また村落定書など村落文書も伝来していることも、林家文書の大きな特徴である。
 現在、公文職の家文書の伝来数が極端に少ない。これは、公文職の家のほとんどが没落していることによると思われる。そして公文職の家文書の多くは村落文書に吸収されたものと推測される。
一方、小山家文書では荘園関係諸職に依存するよりは新たな権利関係を開拓するようなスタンスが明確である。
 いずれも同じく紀伊国中世社会における中間層の文書であるが、戦国期に力点のある小山家文書とは以上のような違いがある。
 この比較研究により、小山家文書の戦国期領主としての特質が浮き彫りにされたものといえよう。

(文責:薗部寿樹)

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共同研究者打合せ会議、第2回研究会

日程:2019年6月17日(月) 9:30~16:30
会場:神奈川大学日本常民文化研究所
参加者:坂本亮太、北野隆亮、呉座勇一、佐藤純一、薗部寿樹、春田直紀、関口博巨(以上共同研究者)
オブザーバー:前田禎彦(常民研所員)、全京秀(客員研究員)、窪田涼子、越智信也(職員)

研究会の様子

二神司朗家文書閲覧の様子

 2019年度の第1回目(通算第2回目)の共同研究者による打合せ会議と研究会を実施した。
 午前は、研究代表者の坂本より昨年度の調査実施状況の説明、本年度の調査予定、翌年度のシンポジウム・報告書などの予定について、確認・意見交換を行い、共同研究の方向性を話し合った。またあわせて、昨年度調査のうち、安宅本城跡(第4次・第5次)の調査成果について、佐藤純一氏が報告「安宅本城跡の調査成果について」を行った。
 午後は、本共同研究で対象としている紀州小山家文書と、神奈川大学日本常民文化研究所が所蔵する瀬戸内海の二神司朗家文書の比較をする研究会「水軍領主の古文書—紀伊半島と瀬戸内—」を企画し、実施した。坂本が「紀州小山家文書の構成と性格」として、紀州小山家文書の紀伊国における位置づけ、昨年度までの調査成果の紹介をしつつ、文書群の時代別・内容構成等の特徴について報告を行った。続けて、関口博巨氏が「二神司朗家文書について」として、瀬戸内の二神司朗家文書について文書群の概要紹介とともに、江戸時代における歴史(記録・由緒)編纂の動きを踏まえつつ、文書群の形成過程に関する詳細な報告をした。その後、二神司朗家文書の原本閲覧(前田禎彦氏・関口氏から解説を受ける)を行い、二神司朗家文書についての理解を深めた。水軍領主に限らず、文書を群として捉え、由緒作成・歴史編纂など、その形成過程(残存状況)を考えることの重要性について改めて認識し、紀州小山家文書の分析にも活かす視点を得ることができた。

(文責:坂本亮太)

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鵜殿文書の調査

日程:2019年4月10日(水)
調査先:西宮神社(兵庫県西宮市)
調査者:坂本亮太

西宮神社(外観)

鵜殿文書

 西宮神社において、吉井良尚氏旧蔵文書のうち鵜殿文書6通の熟覧をおこなった。
 鵜殿文書6通のうち3通は、いずれも興国3年(1342)8月29日付けの後村上天皇綸旨(髻綸旨)であり、鵜殿氏が南朝方として活動していたことがわかる史料である。鵜殿氏は当初、本史料のように南朝方であったが、本史料の翌年から北朝方に転身したことが指摘されている(『鵜殿村史』通史編)。紀南武士と南朝勢力との関わりを伝える点で興味深い。
 また、別の3通は武田信玄書状(鵜殿神次郎あて)など、戦国時代の鵜殿氏の活動をうかがうことができる文書である。鵜殿氏(長高家)は、戦国時代に武田氏(とその家臣)に対して、恒例の牛玉・矢の根・祈禱巻数を送っており、熊野御師として活動していたことがわかる。とりわけ、本史料はこれまで影写本のみで紹介されていたが(『鵜殿村史』史料編)、原文書を確認できたことで、翻刻の校訂を行うことができたことは大きな成果である。
 南北朝時代の南朝との関わり、戦国時代における御師としての活動など、安宅氏や小山氏などと比較検討するうえでも、鵜殿氏の事例は重要になってくることが予想される。今後、紀南武士の動向を比較しながら、検討を続けていきたい。

(文責:坂本亮太)

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