共同研究

1-3.環太平洋海域における伝統的造船技術の比較研究

— 共同研究者の連携強化に関わる第5回国際シンポジウムの参加報告 —

日程: 2014年 3 月9 日(日)
場所: 神奈川大学 横浜キャンバス
参加者: 深澤芳樹 
「渋沢敬三の資料学-日常史の構築-」を聴講して 
 私が初めて渋沢敬三の業績に接したのは、1985年に平凡社が再刊した『絵巻物による日本常民生活絵引』でありました。そこには、「絵巻物のなかには庶民の世界が豊かに描き込まれており、文献では到底わからないことをわれわれに教えてくれます。」(『職人絵合』2012年平凡社62頁)と、網野善彦さんがおっしゃるとおりの世界が広がっていました。奈良国立文化財研究所に入所して3年目の私には、この本は地中から掘り出した遺物や遺構が、どんなところにどうあったかまでも映像として面前に現れ出てきて、何とも不思議な感覚に襲われたことをよく記憶しています。
 その後、渋沢敬三著作集第2巻(1992年平凡社)に収載された「日本釣魚技術史小考」に、出会いました。これは、私のように地中から出土した遺物を研究するものにとって、竿釣にしても、構成する道具と技術、そして狙う魚の生態に関する知識が集約されていて初めて成立することを知ってとても引き込まれました。少年の頃近くの川でハヤやフナを釣った経験があります。その時に釣り糸を竿に結ぶのに手間取ったことがしばしばありました。釣針が引っかかって切れてしまうと、結び直さなければなりません。その結び方も年長の少年に教えてもらって、「すごい」と感動したことを今も覚えています。そしてこれらすべてにそこに至る歴史的な背景がある。すなわち文化であったわけです。
 今回のテーマは、「渋沢敬三の資料学-日常史の構築-」でありました。考古学は、その対象の多くが、常民の日常生活の所産です。この点で、今回の全体テーマは、とても魅力的でした。当日は、朝から夕方まで一日中皆さんのお話を聞くとこができました。そして私自身、これまでしてきたことを反省したり、勇気づけられたりしました。
 その中で特に心に残ったのは、最後にあった総合討論のまた最後に、ヨーゼフ・クライナーさんが、民俗学者の調査の姿勢について発した言葉でした。発表者のお一人の崔順権さんが調査している村人に、今回の国際シンポジウムで発表したことお話ししたい、きっと喜んでくれるはずだと発言されたことに触発されて、宮本常一さんが調査した九州宮崎に行った時、地元で宮本さんの評判がとても良かったことを思い出して、渋沢敬三さんもきっと同じような態度で調査をされていてに違いないといった趣旨の発言をされました。そこで生活している方がいて、調査させていただくという心構えはとても大切だと思います。考古学では、それを使っていた方々は既にすべて亡くなっていて、この世にいません。だから聴取すれば、簡単に片付くような事柄でも、遠回りして対しなければなりません。聴取は、とても難しいでしょう。しかし難しいというのは、その反応を知ることができるからです。その反応と相対して研究できるとは何とうらやましい学問か、これが一日を通して得た私の本当の気持ちでした。

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— 共同研究者の連携強化に関わる第5回国際シンポジウムの参加報告 —

日程: 2014年 3 月9 日(日)
場所: 神奈川大学 横浜キャンバス
参加者: 洲澤育範
第5回国際シンポジウム「渋沢敬三の資料学−日常史の構築−」参加報告書
 まずは、5年に渡り国際常民文化研究機構の運営にご尽力され、第5回国際シンポジウムの開催に務められた関係者の皆様方のご努力に敬服し、御礼申し上げます。ありがとうございました。
 今回のシンポジウムのパネリストは、いずれもその内容を簡潔にまとめ、丁寧で平明な報告であった。舟大工職人の私にも理解しやすく、眠気を催さずに一日を過ごせた。また、自論に酔いしれる方もおらず、気持ちよく報告が聞け素直な論考ができた。
 シンポジウムは趣旨説明に始まり、基調講演、パネル報告、総合討論と、その研究成果や研究手法もさることながら、もっとも思慮したのは、研究対象の人・物・事象に、どのような態度で接するかが肝要であるかということだった。
 礼節と品格を伴わない調査研究は、いかにその時代の権威に評価を受けようとも、時の流れと常民の世界では脆い存在でしかないように思える。
 私は普段、現場で体を動かし汗を流しているが、時に先達の技術を学びにかの地を訪れ、少数先住民族の人々と暮らしをともにする。その度に思うのだが、永い年月の中で生まれ育った土地の環境に順応し共生する術を身につけ、巧みに利用し、消費に溺れることなく、再生を繰り返す環境を維持し、その一部となり暮らす術に畏敬を覚える。また、いったい私たちは過度な消費と引き替えに歴史の中に何を捨てたのだろうかと戸惑う。
 再生可能な「暮らしの技術=Everyday Technologies」で、環境と共存しながら慎ましく生きたのが、かつての“常民”であるなら、渋沢敬三が構築した学問「常民の日常史=History of Everyday Life」は、迷走する現代社会の指針を導きだす一つの手だてであるはずだ。
 本事業の総括の言葉として、シンポジウム実行委員長・佐野賢治氏が記した「常民の、常民による、常民のための世界常民学」の国際的な展開に期待を寄せるところである。

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