平成23年度 第2回共同研究会 および 資料調査(旧徳山村)
日程:2011年10月15日(土)~16日(日)
場所: 徳山民俗資料収蔵庫、揖斐川歴史民俗資料館、大垣駅前ホテル会議室
参加者:神野善治、佐野賢治、上江洲均、川野和昭、河野通明、佐々木長生、真島俊一、石野律子、高橋典子、長井亜弓、馬渡なほ
特別参加者:脇田雅彦(研究者・日本民具学会会員)、脇田節子(日本民具学会会員)
[第一日目] 旧徳山村の民具調査
民具の共通名称(標準名、あるいはタグ名)を考える際、単に地域ごとの名称を集めるだけでは不十分である。どのような形・構造・素材・使われ方をしているかなど、実体がわからなければ比較のしようがない。本プロジェクトで作成中の「民具対応表」は以上の点を踏まえ、共同研究者および研究協力者の研究フィールドの民具、もしくは調査カードの揃った国指定重要有形民俗文化財を中心に、はっきりと実体のわかっている民具の地方名(地域名称)を収集するように努めてきた。
今回俎上に上げた「徳山の山村生産用具」(5,890点)も国指定重要有形民俗文化財であり、山村生活用具の収集では国内最大級を誇る。現在これらの民具は2003年12月に開館した「徳山民俗資料収蔵庫」に保管されており、良好な状態を保ちながら一般公開されている。長年にわたり、この収集・調査・整理作業に尽力されてきた脇田雅彦・節子ご夫妻を講師に迎え、徳山の民具の実体を確認し、共通名称設定のためのデータを集めることが今回の調査の目的である。
揖斐川の最上流に位置する旧徳山村は、緑豊かな落葉広葉樹帯を背景に豊富な動物相に恵まれた地域にあり、村の起源は石器時代にさかのぼるとされる。只見と同じく「木の文化圏」にあたり、縄文文化の流れを汲む。
なお、旧徳山村は昭和62年に藤橋村と合併し、さらに平成17年の町村合併で揖斐川町、谷汲村、春日村、久瀬村、藤橋村、坂内村の1町5村がひとつになり、現在の揖斐川町を形成している。そのため徳山民俗資料収蔵庫の周辺には、揖斐川歴史民俗資料館、谷汲村観光資料館、春日森の文化博物館、藤橋歴史民俗資料館、坂内歴史民俗資料館などの資料館が点在するが、一日ですべてを見ることは難しい。そこで今回は、揖斐川の最上流にあたる徳山村のほか、下流に位置する揖斐川町の民具を確認することとした。揖斐川歴史民俗資料館では、水上運搬道具や漁業の道具、復元された商家など5000点を超える歴史資料を保存・展示している。限られた時間ではあったが、館長の高橋宏之氏の話も伺うことができ、ここでも有意義な時間を持つことができた。
[第二日目] 平成二十三年度第二回共同研究会
(1)「類別」「種名」の試案について(神野善治)
本プロジェクトで製作中の「民具対応表」は、種別(仮に設定した名称)と形態や機能などが近い民具(地方名称)を当てはめ、共通名称を比較検討するための資料である。それとは別に、表題の試みは、それぞれの地方名から共通名称を考えてみることはできないか、という視点から行ってみたものである。地域名と具体物がきちんと対応しており、当該民具の素性や背景(形、構造、機能、素材、使用者、使用法など)がはっきりとわかっている民具群として、今回は調査目的地である「徳山の山村生産用具」を選択。地方名に対応する共通名称を考えながらまとめたのが、「徳山の山村生活用具(類名・種名検討資料)」と題した一覧表である(当日参加者に配布)。
共通名称を考えるにあたってはある程度の大きな括りが必要である。民具の多くは手作り品であるという性格上、全く同一なものを見出すほうが難しい。1対1対応では数限りない名称が必要となることから、用途の似通ったものは便宜上まず「○○類」として括り、機能や形態などに準じて「○○属」と分けてある。
一例を挙げると、徳山の民具で「ダイキリ(大切)」と呼ばれるものは、大材のネギリ、タマギリをする道具であるが、これを類名「鋸類」、属名「横挽鋸」とした。
なお、今回作成した表はあくまでも試案である。横挽き用の鋸には他にも「ガンド」「キリオトシ」「メヌキ」などがあり、どこを基準に分類すべきかなど、まだまだ議論を要することはいうまでもない。
(2)徳山の民具について(脇田雅彦氏に聞く)
民具研究の醍醐味は細部に宿る。共通名称をつけてしまうと一見地域の特徴が消えてしまうように見えるが、民具は有形の民俗文化財である。実体がある限り、差異が失われることはない。本プロジェクトで検討中の共通名称はあくまでも、比較対照するために素材収集を行う手掛かりにすぎないと考えている。そのためしばしば「タグ名」という呼び方をしてきた。
先ほどの発表(1)では地方名を共通名称で括る試みを紹介したが、続く(2)では、共通名称で括られる民具には地域によってどのような差異があるのかを確認することとした。
例えば徳山の「横挽鋸」と同じ名称で括られた、只見の、沖縄の、鹿児島の、沼津のそれとは大なり小なりの差異がみられる。「徳山の山村生活用具-実測図編」をプロジェクターで映し出し、脇田雅彦氏より徳山の民具の特徴を伺いながら、その違いについて意見交換を行った。
(3)民具対応表見直しについて(長井・馬渡)
作業グループからは、7月研究会での議論を受けて10月研究会までに行った作業についての説明と同時に、最新版の民具対応表を配布した。「民具対応表」でも、共通名称については(1)同様に「○○類」という考え方を導入し、引き続き定義や分類の見直し作業を行っていく予定である。 (神野 善治)
写真上段より: 徳山民俗資料収蔵庫2F収蔵庫
徳山民俗資料収蔵庫1F展示室
共同研究会の様子
徳山民俗資料収蔵庫前にて
平成23年度 第1回共同研究会
日程: 2011年7月9日(土) ~ 10日(日)
場所: 神奈川大学・日本常民文化研究所
参加者: 神野善治、佐野賢治、川野和昭、河野通明、佐々木長生、真島俊一、八重樫純樹、石野律子、高橋典子、
米山裕子、長井亜弓、馬渡なほ
上記のとおり、第4回の共同研究会を開催した。概略は以下のとおりである。
■会議内容(概略)
[第一日目]
・「これまでの経緯まとめ・韓国調査報告」(神野善治)※スライドによる現地報告
今回は2011年度第一回研究会として、これまでの経緯を振り返りながら前年度末(2月)に実施した韓国調査について報告を行った。
【概要】本プロジェクトは、日本各地で構築されつつある民具データベースが相互活用できるような手立てを見出すことを目指し、横断して使えるキーワードや、タグに相当する名称を設定することを模索している。同時に、将来的には海外の民具データベースとも連動し、国家間で民具を比較研究するための手がかりを得ることも視野に入れて活動を進めたい。その手掛かりを探るために実施したのが今回の調査である。
韓国には、博物館資料のデータベースを構築するための国の指針として、系統的な分類表(「博物館遺物分類標準化」)が作られ、国立民俗博物館をはじめ農業博物館などその他の博物館でもこの分類に従って収蔵品の整理を行っている。分類表のうち生活用具に関しては日本の文化庁の民俗文化財の分類を参考にして作られているため、両国間の民具が比較しやすい環境にあることもわかった。また、国立民俗博物館では、「衣」「食」「住」「業(生業)」のテーマごとに、カラー写真や実測図などを掲載した『韓民族歴史文化図鑑』が作られ、PDFでも配布されている。これら図録をもとに、韓国の代表的な民具の一覧表をまとめ、日本の民具と重ねる作業ができないか。その可能性があるのではないかという感触を得た。
そして、今回の調査では、国立民俗博物館でキュレーターとして活躍され、現在『韓国生活史事典』の出版に向けて民具のリスト化を進められている金宗奎(キムジョンギュ)氏にお話を伺うことができた。金氏には、本年度以降、本プロジェクトの研究協力者としてご参加いただくことを了解いただけた。
・「民俗資料の情報構造モデルの基礎的検討」(八重樫純樹)
資料をデータベース化するうえで欠かせない情報要素(メタデータ)について、民具の場合は、どのような要素を押さえる必要があるのか、その枠組みについて改めてご提案いただいた。
【概要】民俗資料の背景には複雑かつ膨大な要素がある。民俗の研究者にとっては、その情報のひとつひとつが無視できない重要な研究要素であることは間違いない。しかし情報化に際しては、情報のある程度の枠組み(構造化)が必要である。そこで民俗資料情報として①【“もの”(有形情報)+“こと”(無形情報)】+②民俗文脈(民俗のメッセージ)という模式を設定してみた。
民具情報として重要な②の要素としては、
③ヒト(だれが)+④(名称・目的・用途・機能・材料・製法・使用方法・計量)+⑤トキ(いつ)+⑤場(空間)どこで+⑦文献
という模式が考えられる(※質疑応答の際、④に「形態」を追加)。なかでも、用途・機能は民俗分類の基本情報であると考えられる。この③~⑦をどう組み合わせ、細分化・分類化するかが、情報の構造化に向けた大きな課題になるだろう。
データベース構築にあたっては、データ入力の際、「迷わず」「簡単に」入れられること、つまり、ある種の「割り切り」も重要である。
・「船上用具の名称および定義について」(米山裕子)
前年度2月研究会で神野班長より提案のあった「項目設定について(案)」(提案時に同名の資料を配布済)をもとに、沼津市歴史民俗資料館の収蔵品を“大項目(基本形態)”で分類したらどうなるか、実験的な試みを行い、その際生じた疑問や問題点について報告を行った。
「大項目」の設定は、用途・機能はわからないがモノはある、形状はわかる。或いは、博物館に寄贈されたものの用途不明なモノをどこに分類する(仮の名をつける)か、または、同一形状の多種多様なものを集めて比較研究を行う、といった場合の最低条件としての検索ワードに成り得るのではないかと期待されるものである。
【概要】今回“大項目”としてとりあげたのは、「糸」「縄」「紐」「綱」「布」「棒」「柱」「板」「鉤」「桶」「樽」「筒」「網」「車」の14項目である。なお、それぞれの定義は「広辞苑」によった。
漁具の場合、同じ形式のしかけであっても対象魚によってスケールが違ってくる。例えば、小魚を対象にした場合のしかけのある一部分は紐と呼んでもいい細さなのに、大魚を対象としたものの場合は綱と呼ぶ太さがあったりする。また、地域によって何を綱と呼ぶのか、使われ方がまちまちだったりする。銛のように先端に仕掛けのついた漁具は、果たして「棒」に分類してもいいのかなどの問題点が指摘された(参加者より、その場合は「柄」もしくは「(棒)状」と呼ぶべきとの意見あり)。
やはり、何が糸で何が紐で何が綱なのか、本プロジェクトとしての大項目の定義をはっきりと決めておくべきである。その前に、それぞれの材を扱う専門家(たとえば大工、問屋など)では、どのような区分けがされているのか、確認しておく必要があるだろう。
・「調理用具の諸相モデル」と「台所用具の日本語vs英語比較」(神野善治)
前年度から整備を始めた「民具対応表」の定義では、記載が特定のものに偏りすぎていたり、逆に大雑把すぎたりして、地方名の記入に際して迷いが生じる場合が多々あったのではないかと思う。そこで、どこまでの括りで名称を定義すべきかを、調理器具をもとに図式化を試みた。
【概要】「調理用具の諸相モデル」は、鍋、釜、羽釜、鉄瓶、薬缶、急須などの用途の近い調理器具が相対的に見てどのような関係にあるのかを模式化してみた図である。このような図を作ることで、隣り合う用具の境界線はどこにあるのか、それぞれの関係性が明らかになる。「鉢形」「壺形」あるいは「注口付」「取っ手付」あるいは、「湯を沸かす」「食材を炒める」など、模式図の中に書き出されていく要素が、それぞれの用具の定義になるのではないかと思われる。また別に、日本名に対して英語名ではどの語があてはまるのかを、台所用具をもとに少し試みてみたが、鉢も椀も「Bowl」、鍋も甕も「Pot」となってしまい、単語をきれいに対応させることはできないというのが言語間の基本的な問題である。国際間のモノの名称の比較には同様の課題が考えられることをふまえて今後の本プロジェクトの進め方を考えなくてはならない。
[第二日目]
・「2011年度作業に向けての試案」(長井亜弓・馬渡なほ)
神野班ワーキンググループからは、今年度の作業についての提案を行った。
【概要】ワーキンググループでは、2011年度の作業を「定義の見直し」「キーワードの設定」「検索タグ名」からスタートした。定義の見直しは、第一日目の「調理用具の諸相モデル」の試みと連動したもので、これまで「民具対応表」にリストアップしてきた民具の定義を精査し、今後多くの地方名が混乱なく収集できることを目指したものである。また「キーワードの設定」では、当該民具を検索する際、検索ワードとして有効になる項目を集めた。さらに、これまでの研究会で再三指摘されているように、「標準名」を「検索タグ」と割り切るなら、よりタグとなりうる名称をつけるとしたらどうなるか、を試みたのが「タグとしての名称設定」である。各民具のキーワード的な要素を並べ、例えていうなら美術工芸品のような名をつけてみる、という試みである。例えば、「付け木」なら「硫黄付点火木片」、「火棚」なら「吊下げ式乾燥棚」といった具合である(この名称は検索システムの中での呼び名、検索タグとしての名称であり、「標準名」として表に出すことは想定していない)。「タグ名」並べた要素は、当該民具の定義となる要素と重なるもので、「タグ名」としても「定義」としても使えるのではないかと考えている。
・「南九州の特徴ある民具」(川野和昭)
民具を定義づけ、分類をする上で大切な視点とは何か、南九州の特徴ある民具の中から「運搬具・背負い籠」「運搬具・天秤棒/担ぎ棒」「漁具・魚籠」「漁具・筌」「収穫具・巻き締め叩き棒」「収穫具・叩き台」「収穫具・箕」「収穫具・篩」「狩猟・弩」「食・蒸し器」「食・粗塩入れ」を例に、それぞれの分類の内訳をご紹介いただいた。
【概要】鹿児島県歴史資料センター黎明館では、「比較の視点からみた展示であること」を大事にして、これまで数多くの企画展を行ってきた。天秤棒の分類では「先端の形状」が、魚籠の分類では「肩の形状」が、筌の分類では「縦か横か」が比較する上の重要なポイントであり、分類の視点となる。それぞれの民具の違いをどこで見分けるか、これは民具の研究の醍醐味でもある。
ここまでの二日間の議論では、大枠としての民具の分類を見てきたが、民具研究の面白さは「細部に宿る」ものである。大枠で終わるのではなく、その先にはこうした面白さがあることも、本プロジェクトとして押さえておきたい。 (神野善治)
海外調査(韓国) 【「民具の名称に関する基礎的研究」 韓国事情調査】
日程:2011年 2月 24日 ~ 27日
訪問先:韓国国立民俗博物館、農協中央会農業博物館を中心に、藁草生活史博物館・国立國楽院国楽博物館・餅博物館など
参加者:神野善治・佐野賢治・長井亜弓・馬渡なほ
「民具の名称に関する基礎的研究」神野班では、我が国の民具研究が始まって以来の課題である民具の「標準名」について検討するとともに、民具の名称の基本的あり方を探る作業を行っている。この2年間で、基礎的な作業として、民具の方言に関する従来の研究成果の整理を行い、衣食住などの分野ごとの基本的民具のリスト化を試み、それぞれの民具の地方ごとの方言比較を行った。民具コレクションとして充実している福島県只見地方の民具リストを出発点に、南九州、沖縄地方、東海地方などの民具を加えてリスト化を行っている。この方法で各地の基本情報の整ったコレクションが順次リスト化され、充実していくことで、比較研究の基礎資料になる可能性が、ようやく見えてきたところである。さらに海外の民具のデータを加えることで、広く世界のヒトとモノの関わりをたどる基礎資料の構築ができないだろうかという夢が展開している。
そこで具体的な展開として、我が国の民具と比較的共通性の多い隣国の韓国で、民具がいかに把握されているか、最近の研究事情と博物館の活動状況を知るために今回の調査を行った。
韓国国立民俗博物館 [국립민속박물관] 、農協中央会農業博物館 [농업박물관] の担当者からの聞き取りを中心に、特徴のあるコレクションを保有する小博物館(藁草生活史博物館 [짚풀생활사박물관] ・国立國楽院・国楽博物館 [국악박물관] ・餅博物館 [떡박물관] など)を訪ねて情報収集を行った。とくに国立民俗博物館と農業博物館では、国レベルの活動としてすでに資料の共通データベース化作業が進み、そのデータ化作業において、毎年リストの再検討が行われ更新が行われていることは注目に値する。日本は民具研究に関してはいわば先進国だと思っていたのだが、韓国では国立民俗博物館の常設展示リニューアルなどに伴い、近年、国レベルでこの分野の整備がなされて、私たちが学ぶところが多いことを確認することになった。ただ、文化財、博物館資料の全分野のリスト化の一部に民具に相当するものが位置付けられているだけで、いわゆる民具のリストとしてはまだ十分なものができているわけではなく、共通名称の問題も浮上している。また、これらの専門家は数少なく国立民俗博物館でも1名とのこと。今後の連携、協力関係の必要性を痛感させられた。 (神野 善治)
写真左上 【国立民俗博物館(국립민속박물관)にて、生活史資料分類についての説明をうける】
写真右上 【国立民俗博物館にて、資料情報担当の若手スタッフと】
写真左上 【農協中央会農業博物館(농업박물관)にて金在均館長と】
写真右上 【藁草生活史博物館(짚풀생활사박물관)にて、印炳善館長より聞取り】
平成22年度 第4回共同研究会 および 調査(沼津)
日程: 2011年2月19日(土)~20日(日)
訪問先、場所: 沼津市歴史民俗資料館、神奈川大学
参加者: 神野善治、佐野賢治、後藤晃、上江洲均、川野和昭、河野通明、佐々木長生、 八重樫純樹、 新国勇、石野律子、 高橋典子、長井亜弓、馬渡なほ
特別参加者: 米山裕子(沼津市歴史民俗資料館)、フレデリック・ルシーニュ(神奈川大学非文字資料研究センター)、 小松大介(神奈川大学大学院歴史民俗資料学専攻)、木下宏揚(神奈川大学工学部教授)、佐藤俊輔(神奈川大学大学院工学研究科)
上記のとおり、第4回の共同研究会を開催した。概略は以下のとおりである。
■内容(概略)
[第一日目] 沼津市歴史民俗資料館収蔵民具調査および共同研究会
・「漁撈用具、船上用具の分類と名称について」(米山裕子)
・「台所用具を中心にした生活用具の名称について」(米山裕子)
神野班で現在作業中の「基本的民具のリスト化」にあたり、「漁撈用具」「船上用具」は、課題の多い分野のひとつである。そこで第一日目は、国指定重要有形民俗文化財に指定された「沼津内浦・静浦及び周辺地域の漁撈用具」(2,539点)※を足がかりとして、同館学芸員の米山裕子氏を中心に、これら分野について検討を行った。
また、沼津周辺地域で使われている生活用具の名称についても確認。基本的民具リストの地域別名称対応表に「沼津」の項目を追加し、研究員相互の情報共有化をはかった。
※ 2010年3月11日指定
[第二日目]共同研究会
・「只見町インターネット・エコミュージアムの理念と民具研究の意義」(フレデリック・ルシーニュ)
・「只見町インターネット・エコミュージアム ━只見町所蔵民具検索━」(小松大介)
コンピュータやインターネットを使っての情報収集作業が定着した今、民具の「標準名」に求められるのは“検索タグ”としての機能であることは、これまでの検討会でも度々強調されてきた。そこで二日目はまず、神奈川大学21世紀COEプログラムにおいて福島県只見町と共同で制作され、現在、非文字資料研究センター、同町役場ホームページで公開中の「只見町インターネット・エコミュージアム」の制作に携わった小松大介氏、フレデリック・ルシーニュ氏の2名を招き、構築上の工夫や課題についてご報告いただいた。只見という一地域でさえ、使用者や使用地区によって同一の民具に別名称がつけられているケースは多数みられるとのこと。データベースの構築にあたっては、検索上の工夫にかなり苦心したという実態が報告された。
・「オリジナルオントロジーを用いた民具のデータベース化」(佐藤俊輔)
民具データベースを検索する際の入力語に関しても、名称というよりもキーワードとなる言葉が重要ではないか、という指摘もこれまで何度かなされている。そこで、オントロジー理論に基づいた検索法についての理解を深め、鍵となる言葉の可能性を探るため、神奈川大学工学部の木下宏揚教授、神奈川大学大学院工学研究科の佐藤俊輔氏を招き、研究成果をご報告いただいた。
・「なぜ今、民具の標準名なのか」(河野通明)
・「共通名の設定について再考」(神野善治)
研究会二日目後半はこれまでの経緯をふまえ、まず河野通明氏を中心に、民具の標準名をどのような考えにもとづいて選定していくかについて再確認。名称をどのようにルール化していくかについても検討を行った。また、今後の進め方についても参加者全員で案を出し合い、来年度の方向性について確認した。
以上 (神野善治)