共同研究

2-1.民具の名称に関する基礎的研究

— 共同研究者の連携強化に関わる第4回国際シンポジウムの参加報告 —

日程: 2012年12月7日(金)~ 10日(月)
場所: 神奈川大学 横浜キャンパス
参加者: 佐々木長生

1)国際シンポジウム 「民族の交錯—多文化社会に生きる—」
  ・ハルミ・ベフ氏の基調講演「多文化社会としての日本とその背景」は、日本文化を外国人の眼から研究された上での講演で、日本人として気付かぬ様々な文化の多様性をわかりやすく解説されたもので、次のパネル報告の内容把握に有意義なものであった。文化人類学および民族学からの日本人研究者による日本文化の多様性、多文化、日本文化は単一民族でないことを力説する諸説はあるが、ハルミ・ベフ氏の基調講演は、改めて日本民族の多様性を再考させられるものであった。
  ・パネル報告では、 森幸一氏の「南米ボリビア・オキナワ・ウノ集落の多民族共生・多文化状況の諸相—移住地研究から地域社会へ—」により、沖縄県人の南米への移住により、ボリビア人との共生、そこに沖縄文化の共生、そこから生まれた多文化の様相を具体的な資料により立証されており、日本人の他民族との共生、そこに生まれる新たなる文化の創造性などを見ることができた。
  ・反対に、工藤正子氏の「在日ムスリム家族の子育て—日本人女性とパキスタン男性の国際結婚の事例から—」は、他民族が日本人社会への共生を、他民族の男性が日本人女性と結婚して、どのように共生するのか、食習や宗教などの壁を越えての生活を見ることにより、我々日本人の在り方を考えさせられた。
 
2) 機構共同研究「第二次大戦中および占領期の民族学・文化人類学」グループ公開研究会
   「ミンゾク研究の光と影—近代日本の異文化体験と学知—」に参加。

(佐々木 長生)

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平成24年度 第5回共同研究会(神野班全体会1)

日程: 2012年11月18日(日)・19日(月)
場所: 神奈川大学日本常民文化研究所会議室
参加者: 神野善治、上江洲均、川野和昭、河野通明、佐々木長生、真島俊一、八重樫純樹、石野律子、高橋典子、辻川智代、長井亜弓、馬渡なほ

■概要
[第一日目] 13:00~16:30
 (1)本年度の活動状況(中間報告)/神野善治
  今年度は、本プロジェクトメンバー全員による検討会を行う前に、東京近郊メンバーを中心とした検討会(東京部会)を設け、これまでに第一回「食」、第二回「住」、第三回「沖縄の民具」、第四回「鹿児島の民具」と、テーマを絞って検討を行ってきた。
  プロジェクト開始当初は、まず暮らしの中で使われる道具を網羅した全体的な表「民具名称対応表」を作り、そこに各地域の民具名称を当てはめながら、検索タグにふさわしい名称を確認しようと考えた。しかし、同一県内あるいは同一区域でさえ、同様の民具に対する名称が多様に存在するため、何をもって「地方名」とするのかを見定めなければならない。そこで、各地域の民具を概観し、地域の全体像を確認したうえで、当該地域を代表できると考えられる地方名を選定し、全体表の中に落とし込んでいく方式をとることにした。それぞれの「地方の民具」リストを土台に「民具名称対応表」を整備するという二本立てで作業を進めていけば、検索目的のタグ名とは別の、豊かな地方名の世界を各「地方の民具」リストの中に保つことが期待できる。 
  「地方の民具」リストは現在、研究会メンバーのフィールドである「鹿児島」「沖縄」「只見」「沼津」、国の重要有形民俗文化財指定を受けた「越後奥三面の山村生活用具」「「羽村の民家(旧下田家住宅)とその生活用具」、また昨年度の調査時に「岐阜県旧徳山村」周辺の民具蒐集・管理の中心を担ってこられた脇田雅彦ご夫妻にご協力いただき「徳山の民具」リストを作成している。
  今回の研究会では、滋賀県立琵琶湖博物館特別研究員の辻川智代氏を迎え、新たな検討地域として「琵琶湖周辺の民具」を設定した。琵琶湖博物館は昨年度調査報告でも記載した通り、収蔵民具のデータベース化に力を入れており、名称と実体がきちんと特定できる質の高い収集・管理を行っている。滋賀県の民具の調査状況、あるいは琵琶湖博物館の取り組みなどを含め、琵琶湖周辺の民具についてご解説いただいた。

研究会の様子

 (2)琵琶湖周辺の民具について-Ⅰ/辻川智代
  琵琶湖博物館の収蔵民具は、昭和53年から平成7年までに収集したものを中心とした資料で、6720件・約15000点ある。そのうち6706件は、琵琶湖博物館ホームページ中の「収蔵資料データベース」に登録され、「歴史資料」から「民具等(民俗資料)」へとたどり、キーワードを入力することで、調べたい民具が探せるようになっている(OR検索・AND検索可)。
  辻川氏は2006年から嘱託職員として琵琶湖博物館収集民具の目録づくりやデータベース作成に従事されてきた。配布資料「滋賀県の民具名称」一覧表は、琵琶湖博物館データベースの情報をリストの形に加工し、「滋賀県民俗地図」(昭和54年)記載の呼称と、「琵琶湖調査」(昭和54年~57年)の聞き取り結果を加え、琵琶湖周辺民具の名称を検討しやすいようまとめられたものである。
  第一日目は、滋賀県の概要と地理的な位置づけ、地域差などの概略をご説明いただいたあと、「1衣食住/A衣/1かぶりもの/(1)笠」~「1衣食住/C住/8その他/(3)手水鉢」までの210項目について検討を行った。

 (3)民具名称を歴史から捉える/河野通明 
  前回の東京部会に引き続き、河野氏から以下4つのテーマが提示され、民具の中に保存された歴史的な痕跡についてご説明いただいた。また、これまでの研究会で何度か話題に上った“ラオス・鹿児島県の民具調査にもとづく稲作民移動の実証結果(川野説)”と、“記紀神話分析による呉楚系稲作民の渡来説(河野)”との一致が指摘され、これらの結果が互いの説の裏付けとなることが紹介された。

  1. 中部・関東系「板鈎引手馬鍬」の鹿児島県下の分布
  2. 只見の犂
  3. 鞍の用途分類・形態分類と形成過程
  4. 秦の中国統一と連動したヤマトの建国

[第二日目] 10:00~16:00
 (1)琵琶湖周辺の民具について-Ⅱ/辻川智代
  第二日目は、前日の続きとなる「2生産生業/D自然物採集/1採集・運搬用具 (1)採集・運搬用具/鉤」から検討を開始。漁撈関係用具の検討に入る前に、琵琶湖周辺ならではの漁業の概要をご紹介いただくなど、要所要所で地域的な特徴の解説を交え「9年中行事/X年中行事/8八月/(1)八月/盆灯籠」までの417項目を一通り見渡すことができた。

 (2)民具メタデータの検討(2)/八重樫純樹
  今回ご発表いただいた琵琶湖博物館をはじめ、各地で収蔵品データベースの構築が進められている。将来的にはそれら各博物館の収蔵品データが相互に活用できるようになることが望ましい。
  八重樫氏の提案は、昨年度の討論を踏まえ、そのために必要な民具メタデータの基本項目を9つに整理・分類したものである。設定した9項目が妥当であるか、各項目にどのような内容・精度のデータを記述すべきか、横断検索に必要な項目とは何か等々、今後の検討課題を提示された。

以上
神野善治

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平成24年度 第4回共同研究会(東京部会その4)

日程: 2012年10月29日(月)・30日(火)
場所: 神奈川大学国際常民文化研究機構 
参加者: 神野善治、佐野賢治、川野和昭、河野通明、真島俊一、石野律子、高橋典子、長井亜弓、馬渡なほ

■ 概 要 ■

[第一日目] 10:00~16:30
(1) 鹿児島の民具についてⅠ(農業・養蚕道具) 川野和昭 
 本研究会の前段階として、『鹿児島県歴史資料センター黎明館収蔵品目録(Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ・XⅢ)』および『南九州の民具』(小野重朗著)をもとに、大まかな鹿児島の民具一覧表を作成。この表の並びに沿う形で、鹿児島の民具の特徴を詳らかにするとともに、それらの民具を括ることのできる代表的な地方名は何か、それにタグ名をつけるとするならば何がふさわしいのか、ひとつひとつ検証していった。
 鹿児島の民具一覧表の分類項目は、黎明館の収蔵品目録の分類に依っているため、第一日目は、「Ⅰ農具・養蚕」の「1耕耘・播種」“スキ”から始まり、「2.育成・管理」「3収穫」「4脱穀・調整」「5収納」「6養蚕」「7その他」の“コギボウ”までの暫定79の地方名項目を検討した。川野氏の解説を中心に、約600画像をプロジェクターで映し出し、鹿児島ならではの民具、全国的に見られる民具等々を検証。地域の特徴を踏まえつつ、どのような括りで名称をとらえるべきか、メンバー各位の体験や意見を交えながら、熱心な討論が繰り広げられた。

研究会の様子

[第二日目] 10:00~16:00
(2) 九州の犂 -分布状況補足/河野通明
 前日最初の話題となった鹿児島の犂の系譜を補足する形で、河野氏より「九州の犂の分布図」の提示がなされた。地図の上に重ね合わされた特徴的な形態の違いは、系譜の違い、成立事情の違いを浮き上がらせる。その他の民具の分布図や歴史的事件なども重ね合わせ、さらに考察をつきつめていけば、民具がその土地の人々の民族的なルーツを推測する鍵ともなり得る。南九州の犂を例にとり、民具が持つ歴史資料的な価値が再確認された。

(3) 鹿児島の民具についてⅡ(山樵、狩猟・畜産道具)/川野和昭
 第一日目に引き続き、鹿児島の民具一覧表をもとに検討を行った。この日は「Ⅱ山樵」の「1原木伐採」の“ノコ”から始まり、「2炭焼」「3その他」~「Ⅲ狩猟・畜産」の「1狩猟用具」「2畜産用具」「3その他」~「Ⅳ交通・運輸・通信」の「1人力運搬」「2畜力運搬」まで、暫定62の地方名項目・約400画像にわたり検討を行った。
 二日間の検討結果は、「鹿児島の民具一覧表」および「民具対応表」に反映させるほか、クワ(鍬類)、ノコ(鋸類)、テゴ(背負い運搬具類)など、鹿児島の民具ならではの特徴を色濃く内包した項目については、報告書の段階で解説を残せればと考えている。

(4) 日本の稲作伝来~国家形成をどう捉えるか-川野説の日本全体史への位置づけの試み/河野通明

 これまでの研究会で発表されてきた川野氏の成果発表を受け、河野氏より以下の提案がなされた。
 川野氏の研究は、少数民族系文化・技術が鹿児島県の各地に分布することを実証したものであり、実物の民具に基づいた説得力のある発見である。この成果を南九州とラオスのつながりの中だけで語るのでは非常にもったいない。
 一連の研究は、日本という国はどのようにして国家形成をしてきたのか、という日本の成り立ちにかかわる貴重な資料である。そこで、川野説を日本史全体の中に組み入れるために、①鹿児島県地図に確認できた少数民族の分布、縄文人の分布図、②編み上げ箕と折り上げ箕の日本列島の分布図、この2点の作成を提案するものである。 

以 上
神野善治

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平成24年度 第3回共同研究会(東京部会その3)

日程: 2012年9月7日(土)・8日(日)
場所: 神奈川大学日本常民文化研究所
参加者: 神野善治、佐野賢治、上江洲均、河野通明、真島俊一、石野律子、高橋典子、長井亜弓、馬渡なほ

   ■ 概 要 ■
(1) 今後の研究会について (神野善治)
 10月以降の研究会開催日について報告および相談。2月の共同研究会の発表内容について打ち合わせた。

(2) 沖縄の民具 方言一覧表の整備について (上江洲均)
 東京部会も三回目を迎え、今回からは地域の民具に精通した方を中心に、これまでWGが蓄積してきた各地方の民具名称一覧を検討し、精度を高める作業に入る。今回は沖縄の上江洲氏を囲み、沖縄の民具について検討を行った。

研究会の様子

 沖縄は島ごとに名称が異なる民具も多く、“沖縄”という一つの括りで代表的な地方名を選定するのは難しい。また、古琉球の時代、薩摩の統治下にあった時代、明治維新以後、さらには太平洋戦争以降など、時代時代で使われていた民具にも変化が見られる。例えば、1945(昭和20)年の敗戦後には米軍払下げ品が多く出回り、下駄にまでジュラルミン金属が使われていた時代もある。
 そういった事情を踏まえたうえで、あえて全域を通して見られる沖縄の代表的な民具を選定し、代表地方名となり得る名称の候補を複数あげていただいた。ただし、奄美地方は、沖縄本島や八重山地方などとは別系統の方言名をとる例が多いため、沖縄の民具からは切り離し、「奄美」の欄を別立てで設けることになった。
なお、今回の検討の結果は、現在作成中の「沖縄の民具」および「民具名称対応表」に、次回研究会までに反映させることになっており、本報告では個別の細かい名称については取り上げない。
 その他特記事項として、沖縄で「マドゥヒ」と呼ばれる「笊」形の容器が話題になったことをあげておく。名称選定するうえでの大事な視点のひとつとなる事例であるからだ。この笊は、形状は関東で見られる「箕」とよく似ているが、選別・篩に使われることはない。沖縄で「箕」といえば、その機能面から円形のものを差す。こうした場合、「マドゥヒ」の標準名に「箕」という言葉を当てるのには、違和感があると上江洲氏はいう。最終の報告書では、一覧表にこうした例に注目したレポートを添えたいと話し合った。

(3) 報告1: 「論説 中国地方の在来犂」 (河野通明)
 これまで調査してきた在来犂のうち、中国地方(旧山陽道・山陰道)、兵庫(播磨・淡路地方)、京都(丹波・丹後地方)、計7県の調査結果をまとめた論説を『商経論叢』に発表した旨、ご報告いただいた(『商経論叢』47-3・4合併号(2012年5月)参照)。
 調査した150台の在来犂をつぶさにみていくことで、6~7世紀段階の中国地方の歴史情報を引き出すことができたとのこと。文字には記されてこなかった庶民の歴史が、民具の中に脈々と息づき、営々と伝えられてきたことが実感できる結果となった。

(4) 報告2: 対応表の項目追加について (神野班WG)
 2011年度の徳山地方の民具調査の際、地元で長年民具蒐集の中心的役割を果たしてこられた脇田氏に、徳山地方の民具名称についてご教授願った。さらに「民具対応表」の“徳山”欄のチェックについてもお願いしたところ、快くご協力くださり、赤字を入れて戻してくださった。赤字の入った項目については、現在最新版の「民具対応表」に反映させているところである。さらに、「民具対応表」に該当欄のない項目のいくつかについても、できれば取り上げたほうがよいのではないかとご提案くださったので、ひとまず「項目追加提案」としてまとめ、配布した。
これらの項目については、「民具対応表」がもう少し充実したところで、検討できればと考えている。

(5) 報告3: 滋賀県立琵琶湖博物館収蔵品の名称データ一覧 (神野班WG)
 今年度から国際常民文化研究機構研究協力者としてご参加いただいた琵琶湖博物館特別研究員の辻川智代氏より、琵琶湖博物館収蔵品の概要および画像付き名称一覧の中間報告をご送付いただいた。琵琶湖博物館は2011年度調査でも報告したとおり、データベース管理にも力を入れているだけあり、かなり迫力のあるリストになっている。今後の研究会で辻川氏を交えて、このデータを全国の民具一覧にいかに反映させていくか検討していく予定である。

以上
神野善治

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平成24年度 第2回共同研究会(東京部会その2)

日程: 2012年7月28日(土)
場所: 神奈川大学日本常民文化研究所
参加者: 神野善治、佐野賢治、河野通明、真島俊一、高橋典子、長井亜弓、馬渡なほ

■概要
(1)今年度の日程調整について/神野善治

 今年度の研究会開催予定について、候補日を確認検討。なるべく早い時期に年度末までの計画を作成する旨、確認した。

(2)在来犂の分類について-東京農業大学収蔵品調査から/河野通明

東京農大の収蔵庫で行った「犂」の調査についてご報告いただいた。
犂は牛馬に引かせて田畑を耕す農具であるが、従来は犂床の形態から「長床犂」「無床犂」「短床犂」と区別されてきた。しかし、河野氏は「すでに現役を退き、歴史の語り部となった民具については、歴史的系譜のわかる分類も有効ではないか」と提起。今回撮影・計測した収蔵品を、歴史的な観点から「朝鮮型」「中国型」および二つの「混血型」という三つのタイプで分類した図を作成したところ、それぞれの特徴を示す道具が地域別にはっきりと見てとれ、当該農具が日本全国に広まっていった足跡が確認できた。

(3)民具の形態と機能-蓋における四つの分類/神野善治

武蔵野美術大学で開催中の「蓋と身の深い関係」展(企画:神野)について紹介。蓋の形態的な特徴およびその機能的な違い、“何をもって蓋といえるのか”など、蓋にまつわるさまざまな問題提起を行った。
今回本展覧会の企画にあたり、あらゆる形の蓋を調べてみた結果、「口の大きさ」と「締まり具合」に着目した4つのタイプに大別できるのではないか、との結論に至ったという。今後も形態と機能に着目した企画展を行っていく由、報告した。

(4)「地方別民具一覧」整備作業について/神野班WG(馬渡なほ)

 地方別民具一覧表の目指す意義は大きく分けて二つある。一つは「それぞれの地方の民具が一覧でき、他地方のものとの比較検討を容易にするための資料」であるということ。そしてもう一つは「全国共通名称で括る前に、“その地方を束ねる標準名が必須”であることから、それぞれの地域を代表させ得る名称を明らかにすること」である。
 本年度は、これまで作成してきた表の増補改訂を行い、専門の研究員のいる「只見」「沖縄」「鹿児島」の3地域の表の精度を高め、今後追加していく地方民具表の見本となるものにしたいと考えている。
 次回は、上江洲氏を中心に、「沖縄の民具」一覧表を整備していく予定である。

研究会の様子

(5)「対応表」整備作業-「住」項目の精査/神野班WG(長井亜弓)

前回の「食」に続き、今回は「民具対応表」に記載中の「住」関連民具の項目について検討を行った。
現在のところ、本表は、多くの民俗博物館でも採用している文化庁分類をベースに、「生活:衣・食・住」「生業:農・漁・狩・・」などで民具を括り、検討素材としているが、データレベルではこうした枠を取り去り、「機能」や「素材」、「形態」など、さまざまな視点で横断検索できるものにしたいと考えている。
ただし、紙ベースの印刷物の場合、一定の括りがないと分りにくいので、印刷物としての成果物は、最も使用頻度の高い文化庁分類ベースの括りでまとめ、付録として同じ要素を別角度(機能また形態)から捉えた分類のうち、代表的なもの(刃物、入れ物 など)の表をつけてはどうか、という意見も出された。
最終的にどうまとめていくかは、今後の作業の進捗状況を睨みながら決定していきたい。

(神野善治)

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平成24年度 第1回共同研究会(東京部会その1)

日程: 2012年7月1日(日)
場所: 神奈川大学日本常民文化研究所
参加者: 神野善治、佐野賢治、河野通明、真島俊一、石野律子、高橋典子、長井亜弓、馬渡なほ

■概要
(1)2012年度方針および年間計画について/神野善治
 今年度および次年度をこれまでのまとめの年と位置付け、これまでの研究成果をどのような形に集約するか、検討した。
 なお、今年度は「環太平洋地域における伝統的造船技術の比較研究」プロジェクト(代表者/後藤明氏:南山大学)との共同・公開研究会の開催も企画。船と民具をテーマにした発表を行う予定である。
 神野班WG(作業班)からは、これまで作成してきた「民具対応表」および「地方別民具リスト」を広く外部に発信できる形に整備する旨、報告、各研究員・協力員はそれぞれの専門・立場からどのような提案ができるか、腹案を話し合った。

(2)「民具対応表」整備作業について-機能別「類」の範囲/神野班WG(長井亜弓)
 「民具対応表」は、標準名(分類上のタグと位置付け)に対応する地方名を横並びに集め、一覧できる様式で作成してきた。
 ところが、同一目的で使用される似たような民具であっても、地方によって素材や形態が異なるため、作業を進めるにしたがって、これらを同じものとして横並びに括ってもよいのか、という問題が生じていた。
 それぞれの民具は背景に奥深い世界を内包していて、それこそが民具研究をする者にとって大事な研究要素となっているが、当該民具に詳細な説明を付せば付すほど、同じものは二つとない、という結論に行きついてしまう。つまり、それぞれの民具の定義欄に細かい説明をつけてしまうと、「あなたの地方にこれと同じ民具はあるか」と問うたところで、「同一のものはない」という答えしか返ってこないことになる。
 では、ある程度の違いはあえて無視し、「同一目的・同一用途の民具である」と見做すための括りはどこにあるのか。素材は地域の植生・動物相や社会環境に大きく左右されるし、同じ目的で使用される民具の形態にも地域によっては大きな差異があることが確認されている。そこで、衣食住などの生活用具に限っていえば、素材や形態に左右されない「機能」でならうまく括れるのではないか、というのがこれまでの流れの帰結であった。

 そこで今回は以上の経緯を踏まえ、主に「食」の分野で用いられる道具を機能ごとに分類し「○○類」という区分で括る試みを、出席者全員で検討しながら行った(叩き台資料として、「民具対応表の整備について(提案)」を配布)。それに伴い、「○○類」で括られる民具の定義を、機能を中心にしたごく簡単な記述に置き換え、「対応表」そのものはシンプルな様式とし、当該民具の地域的な特徴などは「地方別民具一覧」の記載に残す旨、提案した。今後は「民具対応表」と「地域別民具一覧」の二つ柱で整備を進めたいと考えている。

研究会の様子

(3)「地方別民具一覧」整備作業について-鹿児島・黎明館目録を例に-/神野班WG(馬渡なほ)
「民具対応表」の弱点として、「総称となる大きな括りの名称は集められてもその下位項目となる個別の名称までは集められない」、「その地域を代表する特徴的な民具であっても、他地域ではほどんど存在しない民具はリストから外される」などの問題がある。これを補うために前年度から整備をすすめてきたのが、「地域別民具一覧」である。
 「民具対応表」の地方名欄に記載されている「只見」「奥三面」「羽村」「沼津」「徳山」「鹿児島」「沖縄」「アイヌ」の8地域については、それぞれ指定物件の目録や資料集などをもとに、地方名と概要・特徴などを記したリストと画像一覧を個別に作成してきた。
 今年度は、まだ未完成のこれらの「地域別民具一覧」を順次充実させる作業を、「民具対応表」と並行して行っていく予定である。
 なかでも「鹿児島・黎明館」の資料は、出版点数も多く、画像も豊富にあるものの、それぞれの民具の概要説明が一覧表化されていないのが惜しまれることから、今年度はまず、この表を充実させる作業から着手。作業見本として、「黎明館収蔵品目録(試案2)」を配布した。

(4)その他 配布資料について
 現在、「民具対応表」の関東地方の民具名にあたる欄には、重要有形文化財指定を受けた「羽村」のものしか入っていないが、今後の課題として、関東地方の民具名称についても充実させていきたいと考えている。参考資料として「川崎市民ミュージアム」の収蔵品目録と前年度までの最新版「民具対応表」を配布した。  以上 (神野善治)

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平成23年度 第4回共同研究会

日程: 2012 年 03月 18日(日)~ 19日(月)
場所: 日本常民文化研究所
参加者: 神野善治、佐野賢治、川野和昭、河野通明、佐々木長生、八重樫純樹、石野律子、長井亜弓、馬渡なほ

[第一日目] 

(1) 「韓国調査報告-韓国における民具蒐集・調査の現況について」 / 神野善治
 現地で撮影した画像をもとに、2012年 2月 29日 (水)から3月 3日(土)にかけて、上江洲均氏と実施した韓国調査の報告を行い、韓国おける全国的視野での民具研究の状況について、情報の共有を図った。
 今回の調査では、韓国ソウル特別市の高麗大学校博物館国立民俗博物館を訪問。高麗大学校博物館では蒐集台帳の閲覧と収蔵庫内の視察を行い、国立民俗博物館では、主に生活用具を対象にした地方別“暮らしぶり”調査の実態について伺い、全国的視野で実施されている民具調査の現況について確認した。

 詳細は「海外調査(韓国)【 韓国における民具蒐集・調査の現況 】」を参照。

 〈追記〉
 韓国の「地域の民俗調査」は「道」を単位に実施されており、現在までに、蔚山広域市、忠清南道、慶尚北道、全羅南道それぞれの報告書(「民俗誌」と「暮らし向きのレポート」)がwebで公開されている(写真下)

※ 韓国の「地域の民俗調査」の報告書が閲覧できるwebページ。
冊子左が「民俗誌」、右が「暮らしのレポート」となっている。

(2) 「琵琶湖博物館(民具データベース)および近隣の博物館の民具整理状況調査」 / 神野善治
 2012年1月31日(火)から2月1日(水)にかけて、河野通明氏らと訪問した琵琶湖博物館および近隣の博物館の民具の整理状況について報告、情報の共有を図った。

詳細は「調査(滋賀)【 琵琶湖博物館(民具データベース)および近隣の博物館の民具整理状況調査 】」を参照。

実際の民具を画像提示しながら、只見の民具の特徴および名称について解説。

(3) 「只見民具の標準地方名について」 / 佐々木長生
 2月研究会の「沖縄」、「鹿児島」に引き続き、当該民具のそれぞれの地方における代表的な名称について検討を行った。今回取り上げたのは、只見の民具である。WGが作成した「只見町民具目録+民具画像一覧 2012.0316版」をもとに、只見の「シゴトシ」は「仕事着」とどう違うのか、只見の「ゲンベイハバキ」と深沓、藁沓との違いは何か、佐々木長生氏の解説を中心に資料画像と照らし合わせながら、3時間近い時間をかけて、綿密に検討を行った。

写真右: 実際の民具を画像提示しながら、只見の民具の特徴および名称について解説。

(4) 「タグ名ルールの提案」 / 神野班WG
 現在制作途上の「民具対応表」の入力作業を進めるうち、名称を括るための当該、民具の定義をどのように整備するかが大きな課題となってきた。
 特にそれぞれの地域で手作りされてきた民具には、地域の特徴が色濃く反映されるため、形は似ていても素材が違っていたり、用途は同じでも形が違っていたりする。工業製品とは異なり、飾りや附属物などの細かな差異まで問題にすれば、同じものはふたつとないと言ってしまってもよいほど違うのが民具である。
 では、同じ名称で呼んでも差し支えないもの、つまり、同一の民具と見做し得る境界線はどこにあるのか。それを議論するための叩き台として、WGでは今回、「タグ名ルール」という提案を行った。
 
① 民具を「機能」で括る
 第一の提案は、民具を「同一のもの」として括る核を当該民具の「機能」に求めようとするものである。
「何をどうする」物(道具)なのか、という点に絞っていくと、素材や形態、民俗風習などが違うものもひとまとめにすることができ、海を超えた外国の民具も包括することができるからである。
 まず、機能で大きく括り、その中をさらに階層で分けていけば、地方名のつけられた地域の特徴ある民具に行きつく、という考え方である。
② 基本形態の定義
 “何をどうする物(道具)”という言い方を、「何をどうする」+「物・道具」という二つの要素に分けたとき、「物・道具」に相当する位置に、特定の形態や用途を想起させる「縄、袋、箱、棒」といった単語が使われる場合が多々ある。
 例えば、「運搬する道具」=運搬[具]には、運搬[籠]、運搬[袋]、運搬[梯子]などの種類がある。では、何をもって籠、袋、梯子とするのか。WGでは今回、容器を示す語のうち、「箱・籠(笊)・袋・器・瓶(壺)・桶(樽)・ビン・缶」の簡単な定義をまとめてみた。引き続き、基本形態を表す語について定義を行っていく予定である。


[第二日目]  第三回研究会/日本常民文化研究所

(1) 「民具メタデータの検討」 / 八重樫純樹
 データベース上で当該資料を探査するためには、どのような民具メタデータが必要なのか。民具のもつ特性を踏まえながら、情報構造について検討を行った。
 民具の情報構造には、大きく分けて二つの要素がある。ひとつは、モノそのものが持っている見た目の情報、すなわち<観察情報>と、もう一つは聞き取りを通して初めて浮かび上がってくる<ことがら>の情報である。
 観察情報は客観性の高い情報であるが、それでも、大きさや重さ、素材など誰が記入しても同じ結果になるものは別にして、例えばそれが深皿なのか鉢なのか、観察者の主観によって記入される言葉にずれが生じるものも少なくない。
 データ入力の際、なるべくずれを生じないようにするためには、ポップアップ形式で選択できるような形にすることが望ましいのかもしれないが、どういう項目を、どのような括りで立てていくのか。また、膨大な民具データを集積するための作業効率を考えた場合、専門家でなくても多少の知識があれば入力作業が行えること、迷うことなく入力できるなるべく平易な言葉を使うなどの配慮も必要である。これらの課題を踏まえ、さらに検討を重ねていきたい。

(2) 「明治・大正・昭和の鋳物型録の紹介—斎江鋳物師資料室所蔵ほか」 / 石野律子
 桶と樽、籠と笊、鍋と釜など、用途や形態の似通った民具をどこで括るのか、境界線を引くのはなかなか難しい作業であるが、商業ベースでこれらの道具を扱う人々は、一定の定義に基づいて線引きを行っている。
 そこで今回は、明治・大正から昭和にかけての古い型録から鍋釜類のものを集めた石野氏所有のファイルを閲覧し、鍋と釜はどこが違うのか、日本の暮らしの中で使われてきた鍋にはどのような種類があるのか、紹介していただいた。

(3) 来年度の方向および課題について / 出席者全員
 来年度も引き続き、「標準地方名」の検討および、同一民具と見做す枠組み(定義)について検討を行い、データベースの可能性について討議していく予定。 

(神野 善治)

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海外調査(韓国) 【 韓国における民具蒐集・調査の現況 】

日程: 2012年 2月 29日 (水)~ 3月 3日(土)
実施地: 韓国ソウル特別市 高麗大学校博物館・国立民俗博物館
実施者: 神野善治、上江洲均

 民具(特にその名称)を考えるとき、日韓の民具の比較検討が重要な手がかりを与えてくれるに違いないということを、私たちのプロジェクトでも意識してきた。そこで韓国内で全国的視野で民具蒐集している博物館が無いか、また民具に関する研究調査が現在どのように行われているかを探っていたところ、ソウルでは高麗大学校のコレクションが充実しているという情報を得た。また、韓国国立民俗博物館が、韓国全土で生活用具の緻密な調査を計画し、すでに実施していると、先般、本プロジェクトで招聘した同館のキム・ジョンギュ学芸員から情報を得た。そこで今回はこの2件に関する情報を得ることを目的にして、2つの博物館を訪問することにした。
 高麗大学校博物館では、国際常民文化研究機構でもすでにお世話になっている田耕旭教授のご案内で、民俗資料のコレクションについてうかがい、特別の配慮のもと、蒐集台帳の閲覧と収蔵庫内の視察が実現した。韓国全土をカバーするように計画的な現地調査によって蒐集されたもので、台帳には1頁に約20件、全体で約100頁余りの資料(総数はおよそ2千点)が登録されていた。1点ずつ、名称、蒐集地、蒐集年月日、蒐集者、寸法などが記入されている。田教授は韓国内の博物館で、生活用具を全国的に蒐集して、かつ調査情報もともに保存している例は珍しいことだと強調された。

国立民俗博物館 館長との対談

 そういわれてみると、例えば国立民俗博物館には全国の「盤」を集めた優れたコレクションがある。「盤」は日本語で言えば「膳」に相当するものである。工芸的に優れ、地方ごとの独特の意匠豊かなすばらしいコレクションであるが、蒐集は古美術商経由のものが中心であるという。高麗大学校の資料は、いわゆる「民具」といえるもので、必ずしも見栄えのいいものではないが、基本データを伴う貴重な民俗資料だということを確認できた。収蔵庫の資料の多くは、日本の民具からその用途などを類推することができるものが多かったが、微妙な形態的差異が認められ、改めて1点ずつデータを確認しつつ、日本の民具との比較検討が加えられる機会が欲しいと思われた。

国立民俗博物館 館長との対談

 国立民俗博物館では、千鎮基館長との面会が実現し、館長からは現在この館が移転計画の渦中にあるが、数年前から始まった韓国全土における地域別の生活用具を中心した「暮らしぶり」の調査の進捗状況や問題点などが紹介された。途中からは関係スタッフを交えて詳しい話を伺うことができた。1地区の調査には、博物館のスタッフが10か月間現地に滞在し、3か月目ごろに1軒の家を選定し、その家の物質文化を悉皆調査する作業を、その家に2か月ぐらい住み込んで行っていることが紹介された。そして家ごとに300頁を超える分厚い報告書と、博物館HPに報告書の電子書籍、全ページのPDFそれに、CGで家の部屋へ入り込んで道具や品々を確認できるソフトなどが公開されていることが紹介された。調査現場での苦労話を具体的に聞けた。わが国における民具調査のこれまでのあり方と、韓国の現在の動きを対比しながら、しばし館長、担当スタッフたちと意見交換ができたことが有益であった。  (神野 善治)

写真2点: 国立民俗博物館 館長との対談の様子

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平成23年度 第3回共同研究会 および 資料調査(川崎市立日本民家園、江戸東京博物館)

日程: 2012年02月19日(日)~21日(月)
実施地: 川崎市立日本民家園、江戸東京博物館、日本常民文化研究所
参加者: 神野善治、佐野賢治、上江洲均、川野和昭、河野通明、後藤晃、佐々木長生、真島俊一、八重樫純樹、石野律子、高橋典子、金 宗奎(キム・ジョンギュ)、長井亜弓、馬渡なほ、 神野知恵〔通訳〕

[第一日目]  資料調査/川崎市立日本民家園

 民具とは昔の人々の生活を語る有形の手掛かりである。諸地域の民具を比較検討することは、地理的条件などによる人々の暮らしの違い、自然と共存してきた人々の知恵を知る作業でもある。同一の目的で使われる民具が地域によって全く違う名称で呼ばれていることは、民具を同定する際の大きな障壁になってきた。そこで、本プロジェクトでは、それぞれの地方名で呼ばれている民具に、共通するタグ名を重ねることで、比較検討すべき素材を検索しやすくできるのではないかと考え、手だてを考えてきた。この考えをもう少し発展させ、日本国内だけでなく、諸外国の民具にも共通するタグをつけることができれば、生活文化の比較研究が飛躍的に進むことが期待できる。
 そこで、今回の研究会では、今年度より研究協力者として加わっていただいた韓国国立民俗博物館のキュレーター、金 宗奎氏を中心に、日本と文化的なつながりが大きい韓国の民具について、検討することを大きな柱の一つとした。文化的に近い国の民具なら、共通名称(タグ)をつけることが可能ではないかと考えたからである。
 まず研究会の開催に先駆けて川崎市日本民家園を訪問したのは、韓国の実情について報告していただく前に、日本と韓国とで共通する民具、日本独自で韓国にはない民具について、お互いの認識を深めるためである。
 当日は、日本民家園園長の木下あけみ氏の案内により、かつての日本の暮らしを支えた民家とそこで使われた民具を実際に見てもらい、実物を前に意見交換を行うことができた。

茅葺き屋根の修復作業現場に入る調査メンバー一行。(川崎市立日本民家園にて) 民家園園長の木下あけみ氏より、民家の構造およびそこで暮らした人々の生活実態について話を伺う。(川崎市立日本民家園にて)

[第二日目]  第三回研究会/日本常民文化研究所

(1)「韓国生活史図鑑発刊事業について・国立民俗博物館常設展示『韓国人の一生』展示室の紹介 他」 金 宗奎
 韓国の民具の管理体制(データベースを含む)、展示法、メタデータの調査、各地との協力体制について報告していただいた。
 韓国では「開かれた博物館」であることを目指している。従来のようにただモノを見せるだけでは、それがどのような場面で、どう使われたかが来館者に伝わらない。単にモノを展示するだけでなく、それがどう使われていたかなどの状況を示すことが重視され、民具の背景にあるメタデータをなるべく多く聞き取りながら、民具の収集を進めている。現在試作中の『韓国生活史図鑑』でも、使用状況を示すことを主眼に編集作業が行われており、博物館学芸員間で何度も検討を行いながら、従来の民具の分類を大幅に見直しているところである。

(2)「韓国の民具と日本の民具の概念比較-食の道具を例に-」 神野 善治

韓国の博物館における民具研究の実情について、金 宗奎氏から報告を受け、意見を交わす。(日本常民文化研究所会議室で)

 民具比較を行う際、海外の民具を日本語に直訳して扱うことは、当然のことながら困難を伴う。それは、道具の使われ方や概念自体が異なるからである。そこでまず手始めに比較的共通点が多いと思われる韓国の食の道具を、『韓民族歴史図鑑<食>』を素材に観察してみた。しかし近いと思われる民具であっても日本のものと1対1で対応させるのはかなり難しい。例えば、日本の「飯茶碗」に相当する器を見ても、「手に持って食べない」「スプーンを使う」などの違いがあり、同一の民具とすることはできない。ただし、「食卓でご飯を入れる器」という程度なら同一のものとして定義できる。共通タグを考えるうえで鍵となるのは、用途と機能、つまり道具と人がどう関わっているかを特定することではないだろうか。

(3)「沖縄民具の標準地方名について」 上江洲 均
 沖縄の民具は、島ごとに違う名前で呼ばれているといえるほど、地方名が多い。そこで、まず沖縄のそれぞれの民具をひとくくりにできる名称はないか検討を行った。沖縄の言語は日本語の中では特異なものに思われているが、日本語の五つの母音が三つの母音に置き換わっているため、例えば「箒(ほうき)」は「ホーチ」と発音される。今回は首里で使われていた名称を基本とし、地方名と比較しながらまとめていったが、道具によっては数多くの地方名を持ち、一つの名称だけでまとめるのは難しいものも少なくなかった。また、中身を意味する名称がいいのか、それとも形状がわかる名称がいいのか、使われ方を意味するもののほうがいいのかなど、今後の検討課題も多数見つかった。

(4)「鹿児島民具の標準地方名について」 川野和昭
 鹿児島の民具についても、沖縄の民具と同様に、用途の似通ったものをひとくくりにできる名称はないか検討を行った。鹿児島の場合、“着物”に相当する概念に“タナシ”という名称があり、木綿タナシ、仕事ダナシ、クズタナシなどと呼ばれている。しかし、これとは別に、衣服の長さだけに着目した「コシギン」、袖の形状に着目した「マキソデ」などの語もある。仕事ダナシには「マキソデ」のものもあり、「仕事ダナシ」と呼ぶべきか「マキソデ」と呼ぶべきか、悩ましいものも多々あった。また、桶と樽に関しても、密閉して保存できるという意味では樽に分類できるものに、「○○オケ」という名がついているものもあり、名称を決める際、定義してつける必要性を感じた。

地理的条件からみた江戸の人々の暮らしについて説明(江戸東京博物館にて)。

(5)「会津地方における山袴の呼称について」 佐々木長生
 会津地方の仕事着の下衣の名称について考察を行った。会津の下衣はサルッパカマ(サッパカマ)と呼ばれる山袴類と、モモヒキ・ヌノモモヒキなどと呼ばれる股引類に大別できる。また作業用の下衣は細く動きやすいのに対し、家庭着の下衣はゆったり広めに作られる。ブダユッコギ、ダフユッコギなどはダブダブとした広めのユッコギであることを意味し、ここからも家庭着であることがわかる。
 ※その他、3.11大震災後の復興の現状報告および資料として「浜下りと大震災」を配布。

[第三日目]  資料調査/江戸東京博物館

 研究会での意見交換を踏まえ、実地調査として江戸東京博物館を訪問。韓国と日本の展示の違いや民具の扱いなどについて、実物を前に意見交換を行った。  

(神野 善治)

写真上段左より:
1 茅葺き屋根の修復作業現場に入る調査メンバー一行。(川崎市立日本民家園にて)
2 民家園園長の木下あけみ氏より、民家の構造およびそこで暮らした人々の生活実態について話を伺う。(川崎市立日本民家園にて)
3 韓国の博物館における民具研究の実情について、金 宗奎氏から報告を受け、意見を交わす。(日本常民文化研究所会議室で)
4 地理的条件からみた江戸の人々の暮らしについて説明(江戸東京博物館にて)。

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調査(滋賀)【 琵琶湖博物館(民具データベース)および近隣の博物館の民具整理状況調査 】

日程: 2012年1月31日(火) ~ 2月1日(水)
実施者:河野通明、長井亜弓、馬渡なほ、(神野善治)
訪問先:琵琶湖博物館、野洲市歴史民俗博物館、栗東歴史民俗博物館

上記のとおり、民具データベースおよび滋賀県の民具調査を実施した。概略は以下のとおりである。

琵琶湖博物館「民具を科学する」展で展示物を前に討論

■[第一日目]:琵琶湖博物館
琵琶湖博物館では、収蔵品をはじめとする各種のデータベースを公開している。民具に関しても、「民具等(民俗資料)収蔵資料データベース」の名のもと、琵琶湖博物館に収蔵・登録している民俗資料をインターネットを通じて検索できるシステムを構築している。現在は、『琵琶湖博物館資料目録』第13号、14号、17号、18号、19号に掲載されている資料(6706件)から、漢字・ひらがな・カタカナ(全角)を使って、OR検索やAND検索もできる仕様となっている。検索ワードには地方名のほかに資料名が付され、ある程度幅広く資料を検索できるようも工夫されていた。本プロジェクトで模索している「標準名的なタグ」をつける試みの有用性を裏付けるものであり、目指す方向が同じことから、今回、実際に当該地域の民具を見せていただきながら、データベース作成に当った方々と意見交換を行った。また、本プロジェクトへの協力もお願いすることができた。

栗東歴史民俗博物館で収集したばかりの首木・鞍・尻枷を使用状態に復原

■[第二日目]:野洲市歴史民俗博物館栗東歴史民俗博物館
2日目は野洲市歴史民俗博物館と栗東歴史民俗博物館を訪問した。
本プロジェクトでは、標準名的な名称の可能性を探るため、同種の民具につけられた各地の地方名の収集を行っている。只見から始め、沖縄、鹿児島と、本プロジェクトの共同研究者のフィールドを中心に、少しずつ欄を埋めてきた。まだまだ収集作業は緒についたばかりだが、日本全国を視野に満遍なく作業を進めるため、まだ手をつけていない、関東、北陸、近畿、中国、四国地方などの地方名も順に埋めていきたいと考えている。滋賀県は昭和53年度~平成7年度にかけて、滋賀県有形民俗文化財収集事業を行い、積極的に民具を収集し、図録としてまとめあげてきた実績がある。元になる資料はこれらの図録が中心となるが、机上での作業の前に実物を見て歩くことは、作業の大きなプラスとなる。そこで、2日目は野洲市歴史民俗博物館、栗東歴史民俗博物館を訪問し、収蔵庫の民具を写真に納め、民具整理状況を取材し、学芸員の方々に本プロジェクトの趣旨を説明、協力を求めた。

以上 (河野 通明)

写真上: 琵琶湖博物館「民具を科学する」展で展示物を前に討論
写真下: 栗東歴史民俗博物館で収集したばかりの首木・鞍・尻枷を使用状態に復原

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