平成25年度 第1回共同研究会
日程: 2013年 6 月 22 日 (土) - 23日(日)
場所: 神奈川大学 日本常民文化研究所会議室
参加者: 角南聡一郎、何彬、鈴木文子、志賀市子、槇林啓介、中尾徳仁
3月に刊行した当班の叢書の内容について、総評をおこなった。これをふまえて、11月に予定している当班の成果報告会に向けて各自がどのような準備をおこなっていくべきかについて、相談をおこなった。 (角南聡一郎)
— 共同研究者の連携強化に関わる 第9回公開研究会 「台湾における物質文化研究の現状と課題」の参加報告 —
日程: 2013年 3月 16日(土)
開催場所: 神奈川大学横浜キャンパス
参加者: 志賀市子
~ 「台湾における物質文化研究の現状と課題」参加報告記 ~
報告者は近年、台湾の廟で売られている宗教グッズや民間信仰の神仙像をモチーフとしたキャラクター商品の流行現象に注目し、台湾政府が2000年代以降進めている台湾政府が推し進める「文化創意産業計画」との関連から、現代台湾におけるローカルな信仰文化の商品化と消費に関する調査・研究を行なっている。
文化創意産業が神仙キャラクター商品のデザイン考案や商品化に直接携わるようになったきっかけの一つに、2002年から博物館や美術館を対象として正式に始動した「国家デジタルアーカイブ計画」に伴って進められた館蔵資料のクリエイティブ化計画やミュージアムショップで販売する商品開発がある。文化創意産業は、博物館に収蔵・展示される文化資源の利用に積極的に関わっているのである。今回の公開研究会の講演者は、お二人とも台湾の博物館の歴史及び現状に詳しい専門家であることから、こうした問題にも話が及ぶことを期待して研究会に参加することにした。
一人めの講演者王嵩山先生は逢甲大学公共政策研究センター教授、台北芸術大学文化資源学院の研究員をされている。王先生のお話は、主として日本統治時代から現代までの、台湾原住民の物質文化研究の歴史を概観するものであり、国分直一や金関丈夫など、日本人の民俗学者の貢献を強調していた。
二人めの講演者黄貞燕先生は国立台北芸術大学博物館研究所助教授で、主に台湾の民俗系博物館の現状と問題点についてお話された。黄先生は日本の野外博物館に相当する文化園区型博物館について紹介されたが、そこで例として挙げられた宜蘭の国立伝統芸術センターは報告者も訪れたことがあったので、興味深く話を聞くことができた。
博物館に関わる研究者として政府の文化創意産業政策をどのように見ているのかという話はなく、その点については残念だったが、講演会の後の懇親会の席で個別に質問し、お話をうかがうことができた。全体として、台湾の博物館の発展過程と現在の博物館におけるさまざまな取り組みを知ることができ、大変有意義な機会となった。 (志賀 市子)
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調査(千葉) 【文化の発信地、三越百貨店と玩具展覧会】
日程: 2013年2月24日(日)~2013年2月27日(水)
訪問先: 西船橋市(三越伊勢丹ホールディングス 三越資料倉庫)
実施者: 鈴木 文子
明治時代の趣味家の活動には、三越百貨店で開催された児童博覧会や玩具展覧会などが大きな影響を及ぼした。とくに、郷土玩具の蒐集会の先駆けである「大供会」がおこなう「一品会(逸品会)」という玩具の展覧会が三越で開催され、そこでは、朝鮮の玩具も大正5年の会で出品されたという記録がある。今回の調査では、どのような玩具が実際に出典されていたのか、また、それ以前に朝鮮玩具が展覧会で展示されていたことがあったのかなどを、三越の記録から確認することにある。また、三越は百貨店の紹介や商品の通信販売のために「時好」、「三越タイムズ」、「三越」などといったPR誌を創業以来発刊してきたが、そこでは、当時の世界の文化や流行の状況が、巌谷小波や坪井正五郎などの知識人によって紹介され、特に、趣味家の世界が一般庶民に広がるひとつの契機ともなっていた。
PR誌の関連記事や当時の百貨店の書類などから、玩具展覧会の状況を詳細に調べることや京城三越の状況などを調査することも今回の目的である。しかし、残念ながら三越の創業以来の資料は、関東大震災や第2次大戦の空襲により焼失し、現在資料室に残されているのは、東京以外の支店から戦後集められた資料や関係者から寄贈されたものだという。PR誌などは、ほとんどそろっていたが、営業所の記録などは、ひとつひとつダンボールのなかから、探しださねばならず、焼失したものも多いので、かなり時間が必要な作業であった。そのなかでも、京城百貨店や博覧会の写真を数点と、支店の報告書などから、これまで詳細がわからなかった当時の展覧会や百貨店の状況などを知ることができたのが、収穫であった。 (鈴木 文子)
海外調査(台湾) 【台湾における信仰文化をモチーフとした文化創意商品の調査と新港奉天宮媽祖遊香遶境活動への参加 】
日程: 2013 年 2 月 12 日(火 )~ 2 月 18 日(月 )
実施地: 台湾・台北市(中央研究院民族学研究所、世界宗教博物館など)、嘉義県(新港奉天宮など)
実施者: 志賀 市子
2月13日昼過ぎに台北に到着。まず行天宮に行き、旧正月の台北市民の参拝行動を観察する。その後文化創意商品を売っている華山1914創意文化園区に行く。
2月13日午前中世界宗教博物館に行き、信仰文化のデジタル化や展示方法、またミュージアムショップで売られている文化創意商品についての調査を行なった。午後は故宮博物院を参観。
2月14日台北⇒嘉義(新幹線) 新港奉天宮の媽祖遊香遶境活動への参加。
2月15日引き続き媽祖遊香遶境活動への参加。
2月16日引き続き媽祖遊香遶境活動への参加。進香団の重要な一部を成す「陣頭」(儀仗隊、太子団、獅子舞など)が見せる台湾独特のパフォーマンス文化の調査を行なった。
2月17日奉天宮の媽祖文化研究中心で資料閲覧。午後嘉義⇒台北(新幹線)
2月18日午前中央研究院民族学研究所の張珣教授を訪問。また民族学研究所付設の博物館の展示「偶的世界、偶的魅力」を参観した。午後台北⇒東京。 (志賀 市子)
写真右上: 媽祖像を乗せた神轎
左下: 電音三太子
(2点ともに筆者撮影)
調査(兵庫) 【 尾崎清次コレクションの朝鮮玩具調査 】
日程: 2013年 1月 5日(土)
訪問先: 姫路市(日本郷土玩具博物館)
実施者: 鈴木 文子
朝鮮の植民地化以降、日本人の趣味家(コレクター)の間で流通していた朝鮮玩具の種類を調べており、『玩具図譜』第4巻として『朝鮮玩具図譜』(1934)を出版した尾崎清次のコレクションを調査するため、コレクションが寄贈されている日本郷土玩具博物館にうかがった。3年前に、一度玩具を見せていただいて、井上重義館長に尾崎氏についてやコレクションが寄贈された契機などをインタビューしていたが、あらためて、玩具1点1点を見せていただくことにした。特に、本プロジェクトの報告書作成のなかで、その起源に関心が生じた「兀然童(オットギ:起上り小法師)」(画像1~3)が所蔵されていること、1930年代頃に流通したとみられる「農民美術」系の人形(画像4)が、1929年に蒐集に出かけている尾崎氏のコレクションにもあるため、その購入時期などを確認するためであった。兀然童に関しては所有者が少なく、現存しているものとしては、もっとも古いもののひとつではないかと思われる。また、尾崎氏の日記など蒐集時の状況がわかる文書がないかを確認することも目的であった。
農民美術系の人形に関しては、尾崎コレクション以外に、別途に寄贈されたり、戦後購入した人形もあり、入手先は不明ということだったが、尾崎氏が最初に蒐集したものではないようである。収蔵品も拡散しているということで、以前撮影していた仮面劇の登場人物を玩具化したものなど、一部は確認できなかったが、48点を撮影した。
兀然童は、状態が悪いものもあったが、逆にそのお蔭で、どのような構造で作成されているかも見ることができた。もともと、素麺粉や草木を使った素朴な玩具類であるため保存が難しい。玩具図譜によれば、「閣氏(カクシ)」と呼ばれていた朝鮮の「姉様人形」などは、商品というよりは、女性たちの手作りの品であったという。同館には、図譜掲載のものとは色などが異なるが「閣氏」も保存されていた。それに添付する形で尾崎氏によるものと思われるメモが残っていた。顔を描くと人形にトッケビ(鬼神)が宿るため、一晩便所に入れておいておくと防止になると書かれている。これまで人形については忌避する対象ということだけが強調されており、具体的な人形の民俗についての記録は少ないため、貴重な興味深い記述である。 (鈴木 文子)
No.3
No.4 No.5
No.6
No.1 ヘテ(神獣)の兀然童
No.2 猿の兀然童
No.3 猿の底に「朝鮮 昭和四年」とある
No.4 農民美術系の朝鮮玩具 5Cmほどの木彫の郷土玩具
No.5 閣氏 手作りらしく、頭部は藁のような植物でできている
No.6 閣氏 目鼻をつけると鬼神がつくとある
(写真はすべて筆者撮影)