— 共同研究者の連携強化に関わる第5回国際シンポジウムの参加報告 —
日程: 2014年 3 月9 日(日)
場所: 神奈川大学 横浜キャンバス
参加者: 天理参考館 中尾徳仁
第5回国際シンポジウム「渋沢敬三の資料学-日常史の構築-」
今回のシンポジウムでは、特にヨーゼフ・クライナー先生、ジョセフ・キブルツ先生の発表を楽しみにしていた。第一の理由は、私は博物館で勤務していることから、ヨーロッパの施設にどれだけ日本の民具が収蔵されているか興味があったからである。第二の理由としては、私は現在、アメリカの文化人類学者で日本研究者としても有名なフレデリック・スタールの研究を行っているが、彼は日本のお札コレクターとして知られており、その点から「お札」に大変興味を持っていたからである。
まずクライナー先生の発表についてであるが、ヨーロッパにある日本関係資料の蒐集活動が、天正少年使節、鎖国、長崎の出島、シーボルト事件、明治維新などの日本で起こった歴史的事象に大きな影響を受けていた点に興味を覚えた。これらの事象は、従来は単に国内だけの歴史としてとらえられていたが、実は日本の美術品や民具の海外流出にも関連しているという新たな視点を得ることができた。更に、日本の「先住民」として、アイヌ関係の資料が意外に多く蒐集されていることに驚いた。国内にはアイヌ資料を展示する施設が少ないので、これらに関する図録等が出版されることを期待する。
なお私の専門は中国民具なので、「今後ヨーロッパの施設に中国の物がどれだけあるのか」について調べることを一つの研究課題としたい。
次にキブルツ先生の発表についてであるが、前述したとおり、私はフレデリック・スタールに関する新情報を得ることを期待していたが、今回の発表ではその話題に触れられる事は無かった。ただし私は中国の民間版画について調査中なので、それらと日本の「お札」との使用法の相違について、以前から関心があった。日本に住んでいながら、意外と日本のお札の使用法を認識しておらず残念に思っていたが、今回の発表である程度の知識を得ることができたのは収穫である。その他、キブルツ先生からは西洋の「お札」(聖人が書かれた本のしおりで、お守りとしても使用するもの)の現物を拝見させて頂き、このようなお札がヨーロッパにも存在することを初めて知り、非常に驚いた。
今回の発表全体を聞いて感じたことは以下の通りである。私は長年、博物館で民具研究を行ってきたが、今まではただモノの使用法や背景を調べることが主目的であった。しかし本シンポジウムでは、例えばその「モノ」だけで無く、収集者や使用者を調べる、彼らの映像を撮影したり、発現を録音したりする、または日本からヨーロッパへ持ち出された経緯を調べる等、様々な研究方法のヒントを得ることができた。これらを今後の研究にぜひ活かしていきたいと思う。