海外調査(韓国全羅北道および南道) 【 西海島嶼部、海辺の海洋信仰と龍王祭祀 】
日程: 2011年 8月 24日(水)~ 9月 2日(金)
実施地: 全羅北道 扶安郡 蝟島面一帯、全南大学校
実施者: 野村伸一 李京燁 金容儀
東シナ海と朝鮮半島の間の航路に沿って、古来、海の信仰も移動した。基層には女性の海神がある。これは全北扶安郡格浦の水聖堂ハルミ(婆さん)に代表される。またその上に、おそらく百済、新羅時代に浙江省普陀山島を基点とした海民の観音信仰が習合する。これは全羅道一帯、とくに全北扶安郡の海辺の寺院にその跡を留めている。
高敞郡禅雲寺、扶安郡来蘇寺、また扶安郡蝟島の内院庵には白衣観音菩薩の図像が安置される。これらは民衆の篤い信仰を勝ち得た。とりわけ海上安全や豊漁祈願の対象ともなった。さらに、蝟島大里の願堂には民俗化した白衣観音がまつられる。これは毎年、正月三日に大里の住民(漁民)によりまつられる。願堂の主神は願堂夫人(ウォンダンマヌラ)とよばれていて、人びとはもはや、それが白衣観音だとはおもっていない。しかし、この祭祀は午前の願堂際と午後の龍王祭により構成されていて、そこには観音と龍王が一対となっていた痕跡がみられる。海の女神、観音、そして観音のもとに位置付けられつつ、なお国家祭祀と結びついて別途にまつられていった龍王、こうした文化複合が東シナ海地域には濃厚に分布する。朝鮮半島の海辺も例外ではない。
今回の調査は2012年1月に実施する「蝟島大里の願堂祭現地研究」のための予備調査である。漁民の生業の変化とともに伝来の海辺の祭祀は至るところで失われつつある。そんななか、蝟島大里の年初の祭祀は保存会の献身的な活動によりなお、当分はつづきそうである。これを現地にて観察し、比較研究することは大きな意味がある。 (野村伸一)
写真左上: 高敞禅雲寺霊山殿の白衣観音菩薩像。善財と龍王を伴う。
写真右下: 傍らにえがかれた難船の商人たち。観音の救済が絵解きされる。
海外調査(中国福建省) 【 泉州芸能合同調査および研究会 】
日程: 2010 年 9 月 5 日(日) ~ 2010 年 9 月 13 日(月)
調査訪問先: 泉州市木偶劇団、海上交通史博物館、蟳埔村(生態保護区)、
厦門市金蓮昇高甲劇団、泉州市高甲戯劇団、開元寺、天后宮、東岳廟、
福建省梨園戯実験劇団、泉州市南音楽団、晋江市掌中木偶劇団
調査参加者: 野村伸一、廣田律子、鈴木正崇、星野紘、吉野晃、丸山宏、皆川厚一、小川直之、
馬建華、金容儀、田耕旭、李京燁、余達喜、陶思炎、謝聰輝、内藤久義、三村宣教
3年間の研究計画の1年目は、渋沢フィルム及びCOE「“人類文化研究のための非文字資料の体系化”2班“身体技法および感性の資料化と体系化”」でのデータの蓄積のある奥三河の花祭りの調査を行なったが、2年目は中国福建省で日・中・台・韓の研究者が一堂に会し調査を実施し比較研究を進めた。
福建省は中国国内で最も多くの地方演劇が伝承されており、莆仙戯・梨園戯・閩劇・高甲戯・歌仔戯・北路戯・梅林戯・四平戯・永平大腔戯・閩西漢劇は2006年国家非物質文化保護リストに登録されている。この内、民間の色の強い高甲戯と逆に上流階級によって育てられた梨園戯を福建南部の演劇伝承のセンターといえる泉州において調査した。高甲戯と梨園戯に取り入れられ、深い関係にある民間音楽で、2009年ユネスコの無形文化遺産にも認定されている南音の調査も行なった。さらに泉州を拠点として世界的にも有名な人形劇の木偶劇(糸操り及びパペット)も調査した。
演劇を育んだ歴史ある商業都市泉州の現状、特に演劇に強く影響を与えている宗教施設の開元寺・天后廟・東岳廟等を見学し、演劇の背景の理解に努めた。
この機会を利用し全体研究会を開催し、研究交流を行なった。
以下に調査を行なった劇団及び演目を記す。
①厦門市金蓮昇高甲劇団『慈雲走国』
②泉州市高甲戯劇団『廣澤尊王』
③福建省梨園戯実験劇団『陳三』等
④泉州市南音楽団『望明月・梅花操・走馬・鶯鶯伝』
⑤泉州市木偶劇団『火焔山』
⑥晋江市掌中木偶劇団『沈香求母』
(廣田律子)
■ 写真左上から
【研究会風景】 【東岳廟内の人形使い】
【厦門市金蓮昇高甲劇団 演目「慈雲走国」】 【福建省梨園戯実験劇団 演目「陳三」】
【泉州市南音楽団 演目「梅花操」】 【泉州市木偶劇団 演目「火焔山」】
【泉州市高甲戯劇団 演目「廣澤尊王」】
写真撮影:内藤久義
※ 今回の泉州合同調査が何社かの地元新聞に取り上げられました。
調査(奥三河花祭り)および公開研究会
日程: 2009年12月10日(木)~ 12月16日(水)
訪問先: 神奈川大学・愛知県北設楽郡東栄町中設楽
日本常民文化研究所所蔵の渋沢フィルムには奥三河花祭り(中在家)のものがある。また21世紀COEプログラム“人類文化研究のための非文字資料の体系化”2班“身体技法および感性の資料化と体系化”では、花祭り(古戸)、儺舞(中国江西省)及び能(観世流)の動きをモーションキャプチャーで収録し、身体技法の定量化の試みを行なった。本グループは、この日本常民文化研究所の日本と中国の祭祀芸能に関わる資料及研究蓄積を踏まえ、さらに発展させる為にアジアの祭祀芸能間の比較研究を行なう。1年目は中国・韓国のメンバーを招聘し研究会開催した後、奥三河花祭り(中在家)の調査を行ない、渋沢フィルムとの比較及諸地域との比較を試みた。調査には、協力者及び院生を含む23名が参加した。さらに渋沢と交友のあった原田家(清学山荘)を訪問し、渋沢に関わる資料を拝見した。神奈川大学開催の研究会の内容は、以下の通りである。
12月12日(土)研究会
09:40~10:00 国際常民文化研究機構挨拶、メンバー紹介、プロジェクト趣旨説明
10:00~11:30 「三河・花祭」関係アチック写真及渋沢フィルム(中在家花祭り)上映 解説:日本常民文化研究所所員 窪田・加藤
11:30~12:30 休憩
12:30~13:10 「花祭り研究と上演—折口信夫を中心として—」国際常民文化研究機構運営委員 國學院大學 小川直之
13:20~14:00 「東アジアの花育て—1995年三沢(山内)の花祭から」国際常民文化研究機構“アジア祭祀芸能の比較研究”プロジェクトリーダー 慶應大学 野村伸一
日・中・韓の研究者が合同で調査を行なうことで活発な意見交換ができ、アジアの祭祀芸能研究を進める成果に繫がることになったと考える。