共同研究

1-1.漁場利用の比較研究

公開研究会「魚と人の関係史 -『漁場利用』班と『水産史』班の合同成果発表会-」

会場の様子

去る2月15日(土)、本研究グループは、これまでの研究成果発表の場として、「海民・海域史の総合的研究」をテーマとしたもう一つのグループと合同で、公開研究会を開催いたしました(最下段URLをご参照ください)。

その内容について、グループ代表の田和正孝先生の報告を以下にご紹介します。

  「漁場利用の比較研究」班の研究の目的は、 ①漁場利用の技術や知識について、その実態と歴史的推移を明らかにするとともに、地域間あるいは異なる生態環境での漁場利用について考察し、さらには漁場利用の社会経済的、歴史民俗的意義について問うこと、②漁場利用に関する現代的な課題の解決に有効な社会知・民俗知を見出すことの2点であった。研究テーマとして、①漁場の利用技術(漁具・漁法)、②漁場利用の民俗知(ヤマアテや観天望気)、③漁業資源の管理と保護、④漁場利用をめぐる紛争と規制(漁業制度)、⑤海域環境の多様性とエコトーン(汽水域・潮間帯・潟など)の機能、⑥漁場をめぐる現代的課題(海域汚染や排他的経済水域の問題など)などを想定した。それに基づいて共同研究者として、地域や空間について理解のある5名を選んだ。安室 知(神奈川大学:民俗学)、若林良和(愛媛大学:水産社会学)、河原典史(立命館大学:歴史地理学)、橋村 修(東京学芸大学:歴史地理学・環境民俗論)、田和正孝(関西学院大学:漁業地理学)である。これに越智信也(神奈川大学:歴史学)が研究協力者として参加した。班員は、複数の研究成果を得ることを目標に、3年間にわたり、共同調査、研究会、個別の調査を進めた。その成果が2013年3月に発行された報告書(国際常民文化研究叢書第1巻)である。報告書には各自が複数の論文・資料を執筆しており、その点でいうと所期の目的は達成できた。
  研究代表者は、漁業地理学的な視点から、これまで漁場利用に関する研究を大きく2つに分類してきた。ひとつが、漁場争論や漁業権益の変化を史・資料を用いて考察する「制度(しきたり)や用益権に注目した漁場利用研究」、もうひとつが、漁業活動に関するデータを計量的手法や参与観察法によって得ることで、漁業者と漁場との関わり方、すなわち人間-環境関係(man and environment relationship)を解明する「漁業活動の生態学的側面に注目した漁場利用研究」である。研究代表者は、後者の研究を「漁場利用の生態学的研究」と命名し、これを中心的なテーマとして、いわば共時的な研究を進めてきた。しかし、その後の研究において変化する漁場利用形態にも注目し、フィールド調査に基づく新たな時間軸を設定して、通時的に漁場利用を考える重要性も感じてきた。漁業地理学における漁場利用研究の2分野を融合する立場の重要性である。
  今回の共同研究では、これまで多くの専門分野でなされてきた漁場利用に関する諸研究が様々な時間設定の中において分析されてきたことを再確認できた。それとともに、共同研究者との討論の結果、漁場利用研究の時間的・空間的研究の枠組みが拡大した。共同研究成果発表会「魚と人の関係史」においても漁場利用研究を時間的・空間的にとらえる重要性が指摘された。橋村報告「回游魚シイラと人との関係史—「雑魚」「地魚」「ハレの魚」としての回游魚をめぐる歴史民俗」においては重要な分析軸として「歴史軸」と「地域軸」が提示されたし、安室報告「再考、魚名の研究—アワビの民俗分類と命名」においても、一地域を取り上げる視点の重要性が説明されるとともに、渋沢敬三を引用して「時と所と人」という分析軸が披瀝された。河原報告「20世紀初頭のカナダ西岸における日本人漁業移民—サケを獲るひと・運ぶひと」ではモノグラフィック・プレゼンスの明快さ、さらには漁場利用にまつわる史・資料の発見と利用可能性が提示された。研究報告書刊行から1年を過ぎて、「漁場利用の比較研究」班は更なる進化を提示できたと自負している。
  班員数が限られていたため、期待しうる成果として当初より目論んでいた「現代社会における漁場利用を研究するための学際的かつ国際的な視野」を十分に高めるには至らなかったことを反省点として掲げておきたい。ただし、本機構の他のプロジェクト型共同研究の中に漁場利用研究に精通した多くの人類学者、水産経済学者が参画しており、こうした研究者の成果が我々の残された課題を十分に補ってくれると考えている。
  共同研究成果発表会当日は、横浜は大雪に見舞われ、交通機関にも大きな支障がでた。そのため、参加を予定していたにもかかわらず、航空機が欠航となり不参加を余儀なくされた者が複数名あった。その点が惜しまれる。とはいえ、充実した5本の報告とそれらに対する活発な討論がなされたことを明記しておきたい。あわせて、今回の発表会をご準備くださった関係各位に心よりお礼を申し上げたい。 (田和 正孝)

⇒ 公開研究会のお知らせ「魚と人の関係史 -『漁場利用』班と『水産史』班の合同成果発表会-」

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